約 1,346,307 件
https://w.atwiki.jp/god-wars/pages/37.html
攻略指南1 もし戦闘がキツイと感じたら「やしろ」で依頼を受けて仲間を育てよう。 攻略指南2 戦いの基本は集中攻撃での各個撃破だ。 特に敵の回復役を優先的に攻撃しよう。 状態異常で行動を封じるのも有効だ。 攻略指南3 状態異常を駆使しよう。病毒ならけがれを増やさずにダメージを与えられたり、 暗闇状態で命中力、回避力を下げて戦闘を有利に進めることができる。 特に重ね掛けは有効だ。 攻略指南4 味方内でけがれ値をコントロールすることである程度敵からのターゲットを制御できる。 けがれ値の高いユニットが必ず狙われるわけではないので注意。 攻略指南5 鳥獣や物の怪などの敵はパッシブスキル「生存本能」を持っていることがある。 HPが少なくなるなど回避力が上がる厄介な能力だ。回避力を下げるか法術攻撃でトドメをさそう。 攻略指南6 一部のステージでは連続して戦闘がおこることがある。 連戦中はワールドマップに戻れないので仲間の育成不足やアイテム不足で行き詰まるかもしれない。 セーブは上書きせずに別スロットにするといいぞ。 攻略指南7 鳥獣や物の怪なdの人間以外の敵はHPが25%以下の瀕死状態になると稀に凶暴化するので注意が必要。 凶暴化後はHPが半回復し、能力も跳ね上がるので敵の行動順になる前に素早くトドメをさそう。 攻略指南8 装備品の中には特殊な効果を持ったものがある。 名前が青色の装備品は「魂宿り品」と呼ばれ、敵を倒した時に低確率で入手することがある。 攻略指南9 装備品の中には特殊な効果を持ったものがある。 名前が黄色の装備品は「神宿り品」と呼ばれ、強力な特殊効果を持っている。 攻略指南10 「やしろ」の依頼を一定数クリアすると封印されている依頼が解放される。 封印された依頼では強力な装備が報酬として貰えれる。 攻略指南11 弓や弩は高低差によって通常攻撃時の射程が増減する。対象より4.0h高くなる毎に射程が1ずつ減少する。 ただしスキルでの攻撃には影響しない。 攻撃指南12 オオクニヌシのスキル「手練れの間合い」やパッシブスキル「殺気」、装備品の特殊効果「ZOC発動」 は前左右マスに侵入する敵の移動を停止させる効果がある。 戦闘指南13 スキルのレベルを上げると効果が上がるが、消費MPも上がってしまう場合がある。最大MPやMP回復力を考慮してスキルレベルを上げよう。 攻略指南14 戦闘中、敵にカーソルを合わせて□ボタンで敵の能力や耐性を見極めて弱点を突くことで戦況を有利にすすめることができる。
https://w.atwiki.jp/vonkyuvon/pages/98.html
愛乃はぁと 攻略 安栖頼子&ミケ 攻略 廿楽冴姫 攻略 リリカ 攻略
https://w.atwiki.jp/sora_evo/pages/11.html
ボス攻略 ボス攻略ボス1 ボス2 ボス1 攻略情報1 攻略情報2 ボス2 攻略情報1 攻略情報2
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/385.html
頭部消失。五連チェーンガンを装備した左腕も切断されもはやなく、左肩のクレイモアも誘爆の可能性あり。 むき出しになったクレイモアをサブモニターで確認し、よくもさっきの衝撃で誘爆しなかったものだとアキトは息を吐いた。 機体のチェックを終えてまだ動くことを確認したアキトは、自分の現在地を確認する。 もっとも、確認とは言いつつもカメラから分かることは、自分は白い人口惑星の表面に飛ばされたということだけだが。 それ以外で目に入るのは、始めて見る大型機の残骸のみ。 アルトアイゼン・リーゼの調子を再度確認し、損傷が少なすぎることに違和感を覚えた。 アキトの世界では、人が搭乗するタイプのロボットは例外なくディストーション・フィールドが装備されていた。 だから、ボソン・ジャンプをしてもなんともない。しかし、アルトアイゼン・リーゼは違う。 特別空間を仕切るようなバリアを持っていないのに、その損傷がないのだ。 元々あのアルフィミィの場所に飛ばされたときにもこの機体はそこまでボソン・ジャンプでダメージを受けなかった。 元々頑丈で、壊れにくいのだろう。だが、それは機体の話だ。生身の自分まで平気な理由にはならない。 「もしかしたら……何かが宿っているのか」 姿や機体特性を見れば、これはあの蒼い孤狼が乗っていたマシンの発展系であることは理解できる。 そして内部のAIなどから、自分や、キョウスケが乗ったアルトアイゼンと同一のものであることも。 ということは、あの蒼い孤狼の化け物マシンが再びこれに戻ったということか。 不思議な力が宿ったとして、変な話じゃない。 もしも、自分が殺したキョウスケの機体が自分を何かしらの力で守っているとしたら、とんだ皮肉だ。 「あのネゴシエイターは……」 周囲を確認するが、凰牙の姿は見えない。そのことに、アキトは眉を寄せた。 アキトはボソン・ジャンプを敢行した。その結果、ここに飛ばされて来た。 アキトは、アルトアイゼン・リーゼの手を開く。そこには、蒼い宝石が握られている。 C.C(チューリップ・クリスタル)は、殴り合いの中どこかは知らないが凰牙の体から落ちたものを拾い上げ使わせてもらった。 ここまではいい。だが、そこから問題が一つある。 いるはずの、凰牙がいないのだ。空間転移の歪みに押しつぶされようと、残骸程度は転移しているはず。 A級ジャンパーである自分が結果として共に転移している。凰牙はあの様子ではまだC.Cを残していたと思う。 五体満足でここに現れても不思議ではない。一体どこに消えたのか。 「まさか……過去か、未来か?」 ボソン・ジャンプは厳密には空間移動ではない。時間移動なのだ。 空間を粒子化した状態で移動し、その後時間移動で移動にかかった時間だけ巻き戻す。 だが、もしこの時間の巻き戻しに何かあれば当然、今とは違う時間に飛んでしまう。 アキトは、赤い古鉄の右手に握り込んでいたC.Cをコクピットへ移す。あまり、量はない。 何度も使っていればすぐになくなってしまう量だろう。 かつて、家族がこれを――C.Cを遺してくれたおかげで、アキトは生き残ることができた。 アキトは、モニターを回し、白い星への突入口を探す。その時、とくに意識せず上方も確認していた。 別に上から何か来るとは思えないが、できる限り全方位確認しようとすることは不思議でもなんでもない。 そして、気付く。 「あれは――!?」 アキトが赤い古鉄に乗り込んだときは、木星に似た渦模様と赤銅色をしていた星は、まったく別の姿をしていた。 白く、輝く光を放ち、明滅し、光のためかその輪郭が大きくなったり小さくなったりしているように見える。 いや、違う。見える、のではない。実際に大きさが変化している。茫然とそれを見上げていたアキトは、さらに気付いた。 それが、少しずつ拡大していることに。あの輝く星のようなものは、この世界を飲み込もうとしている。 大収縮ののち、拡大に世界は転じたのだ。 アキトの、自分でない誰かの部分がささやいた。アキトは、それを振り払うため小さく頭を振る。 だが、世界の拡大そのものを防げるわけではない。もうすぐ、あれは全てを飲み込む。 そして、全てを終わらせる。 世界に対して、テンカワ・アキトという一人の個人はあまりに無力だった。 全てを終わらせる力への絶望が、アキトの足を止めた。 ■ C.C(チューリップ・クリスタル)は、時間移動への切符。時の旅人への通行証。 だが、もしも時間が正しくない世界でそれを使えばどうなるだろうか。 例えば――時間軸をゆがめて作った世界のそばでそれを使えば。平行世界、別の世界の時間軸を含むそんな場所で使えば。 もしかしたら、どんな世界でもない、どんな時間でもない、そんな場所にたどりつくのかもしれない。 ■ ロジャー・スミスが目を覚まして最初に見たものは、金色の穂先と青い空だった。 自分が地面に大の字に倒れていると気付いたのは、意識が覚醒して一瞬後のこと。 身を起こそうと地面に手をつけば、そこにあるのは倒れた穂先。ロジャーは麦畑のど真ん中に倒れていたのだ。 「ここは……」 身を起こしたロジャーは、襟元を正しながら、来ている黒いスーツについたモミや草を落とす。 そこで、ふと違和感を覚える。少し考えて、ロジャーも違和感の原因を見つけた。 先程まであった、体の痛みが消えているのだ。 肋骨が折れ、体をひねるたびに起こっていた痛みが、体を起こすときになかった。 いや、それだけではない。 リリーナ嬢を抱きかかえた際や、ガウルンに奇襲を受け地面を転がった時についた、スーツの土や血といった汚れがまるきり消えてしまっているのだ。 未だ理解しがたい現状に混乱しながらも、ゆっくりと首を左右に動かし、周囲を眺めてみる。 そこにあったのは、農夫と、トラクターと――空の向こうに広がる、黒い鉄枠。 他でもない、見慣れたパラダイムシティを覆う半円状のドームの天蓋がそこにあった。 パラダイムシティであるとするならば、ロジャーにも自分がいる場所に心当たりがある。 大規模農作用ドーム、『アイルズベリー』。何度かロジャーも依頼がらみで足を運んだことがあるので覚えている。 麦畑をかき分け、土でできた道路にロジャーは立ち、自分の体を眺めた。 あの殺し合いに招かれる前の、依然と変わらぬ世界で、いつもと変わらぬ姿でここにいる自分。 先程までいたはずの、あの狂った世界は何だったのか。 自分が見ていたのは冗談のようにタチの悪い悪夢でしかなかったということか。 いやそれもあり得ない。確かに、今のロジャーにあの殺し合いの世界にいたという痕跡はない。 しかし、ロジャーの記憶(メモリー)は覚えている。 あの狂った世界の、狂った法則に立ち向かう人間たちのことを。 だがそれが正しいとするならば、ロジャー・スミスはまだあの狂った世界にいるはずなのだ。 ここにいるロジャー・スミスは何なのか。 ほんのわずか前と認識している事柄と、繋がらない現状の記憶(メモリー)に悩む男は誰なのか。 ロジャーはひとまず屋敷に連絡するため、腕をまくった。 そこには、さまざまな機能が付いた時計がはめられており、機能の一つとして屋敷にいるノーマンとの連絡機能もついている。 慣れたしぐさで口元に手首を運ぶ。 「ノーマン、聞こえているか?」 しかし、返答はない。時計からは、小さくジジジ、と不協和音が流れるのみ。 ロジャーは腕時計に視線を落とし、絶句した。腕時計のカバーガラスが壊れ、時計が止まっているのだ。 壊れた時計。 それ自体はおかしくない。ものである以上壊れることはある。問題は、いつ壊れたかということだ。 今ここにいるロジャー・スミスの記憶(メモリー)を参考にする限り、腕時計が壊れた覚えはない。 ユーゼスとの会談に向かうに当たって、ロジャーはこの腕時計で時間を確認している。 それ以後、時計が破損するほどの衝撃が手首にかかったことはない。 「どうなっているんだ……」 壊れていないはずの時計は壊れ、汚れているはずの服は汚れておらず、傷ついたはずの体にはその痕跡がない。 本当に白昼夢だったというのか。もしくは、自分の中の失われた記憶(メモリー)のフラッシュバック。 あれほど、鮮明なものが、40年以上前に過ぎ去ったものだと? 暖かな日差しとは裏腹に、歪む顔を手で押さえるロジャーの背筋には冷たいものが流れ続けていた。 「おや、君は……どうしてここにいるのかね?」 突然自分に掛けられた声に、はっとなりロジャーは顔を上げる。 いつの間にか、ロジャーのすぐ前には一台のトラクターが止まっていた。 先程はなかったはずのそれは、そこにあって当然である、在らねばならないと主張するほどの存在感を何故か持っていた。 ロジャーに声をかけた、トラクターに乗る人物もまた、ロジャーが知る人物。 農夫姿で、樹齢何百とたった樹のようなしわを顔に刻んでいる、 どこを見ているか分からない、いつも虚空を見ているような眼でロジャーを見ている人物の名前は、 「あなたは……ゴードン・ローズウォーター……」 パラダイムシティをかつて納めていた人物であり、数少ない40年以上前の記憶(メモリー)を持つといわれる老人だった。 確かに、彼は隠居しアイルズベリーでトマトの栽培をしながら過ごしている。 ここがアイルズベリーとすれば、いてもまったくおかしくない人物だ。 しかし、ロジャー・スミスが保有している記憶(メモリー)が正しいという前提があってのことにすぎない。 もしかしたら、彼は全くロジャーの知らない何者かなのかもしれない。 「乗りなさい」 ゴードン・ローズウォーターがトラクターへ乗るようにロジャーに促した。 どこか夢遊病者のような足取りで、ロジャーはゴードン・ローズウォーターの隣に座る。 トラクターは、再びどこかに向けて動き出した。ゴトゴトと整備されていないでこぼこ道をトラクターが走る。 ロジャーは、未だ自分がどこに立っているのか理解できていなかった。そして、自分が今からどこに向かうのかすらも。 「どうしたのかね?」 前を見つめたまま、ロジャーを見ずにゴードン・ローズウォーターはそう呟いた。 ロジャーは、自分とゴードン・ローズウォーターしかここにはいないにも関わらず、 その呟きが自分に向けてのものであることを、咄嗟に理解できなかった。 ■ 星に広がる毛細血管のような通路の中、ブレンが飛ぶ。下からの轟音が少しずつ遠くなる。 地獄からの生還、そんな言葉がふと頭をよぎるが、まだ終わってないのだ。 上に登って、ロジャー達と合流し、再度突入する。 例え、どれだけ勝ち目が薄くても、それ以外に最終的に生き残るすべはない。 力が足りない。アイビスに、その事実が重くのしかかっていた。 ブレンを悪い子だとは思わない。しかし、非力さだけはどうしようもなかった。 凰牙。サイバスター。F91。キングジェイダー。ユーゼスのメディウス・ロクス。 そういった相手に比べて、あまりにも弱い。撹乱して、手傷を少しつけるのがやっと。 その結果が、これだ。誰の窮地も満足に救えない。倒れていく仲間を見ている側で、ただ生きている。 もし、自分ではなくこの場にもっと大きな力を持つ誰かがいたら、カミーユを助けられたのではないか。 アイビスはそんなネガティブになりそうな思考を頭から振って追い出そうとする。 しかし、なかなかその考えは頭から消えてくれなかった。 そんなとき、鼓膜を叩く大きなスラスターの音。 まだまだ続く黒い穴の向こう、確かに何がこちらに接近している。 「ロジャー!?」 そうであってほしい。いや、そうに違いない。ブレンは上昇を続けている。 だが、アイビスが何か指示するよりも早く、急にブレンの動きが変わり、進路を横に向けた。 その次の瞬間には、上空の機体は急加速し、ブレンの横をすり抜けていた。 明らかにそのままのコースだったら衝突している。 「いったい、誰!?」 アイビスが、急停止し今度は下からこちらを見上げている機体をモニターに写す。 そこにいたのは、ユーゼスとの戦いで途中ユーゼス側の増援として現れた蒼い騎士だった。 しかも剣を抜き、戦闘態勢を取っている。 「ちょっと待って! もうユーゼスもいないんだから話を聞いて! ユーゼスと一緒にいたってことは脱出しようと思ってるんだよね!? 少しでも力がいるんだ、協力してみんなで……」 「他人なんていらない。……俺は、俺一人で全員殺す」 青い騎士が答えた。声が意外と若い。カミーユや自分とそこまで年は変わらないように思える。 だがその声色は、同い年とは思えないほどの冷たさと、暗さを秘めていた。そして、その内容も。 「……ッ! そんな! あのノイ・レジセイアを倒せば終わりなのに、なんでまだ殺しあわなきゃいけないのさ!? もう殺しあう必要なんてない! ロジャーや、カミーユ、キラやシャギア、それに……あのテンカワって人も! みんなで協力すれば、ノイ・レジセイアだって倒せる!」 だが、そんなアイビスの声を無視し、青い騎士は剣を振り上げた。 「ロジャー? テンカワ、キラ、シャギア? ……みんな死んだよ。次は、お前だ。その次は、下の連中。全員、殺すんだ」 虚無を湛えて、蒼い騎士は言う。 蒼い騎士は、ゆっくりとその手に握る剣――ロジャーがガウルンから奪った大剣――をこちらに掲げる。 「そんな……ロジャーが、そんなはずがない!」 アイビスの叫びも、蒼い騎士が動きを止めることはできない。 蒼い騎士から言葉はなく、あるのはこちらを殺そうとする意志のみだった。 アイビスのブレンが震えている。ノイ・レジセイアやキョウスケと出会ったときに似た挙動に、アイビスも驚きを隠せない。 ユーゼスとの戦いのときは、そんなことはなかったはずだ。この短時間に、いったいどんな変化があったのか想像もつかなかった。 だが、分かることが一つだけある。それは、こんなところで死ぬわけにはいかないということだ。 ブレンがソードエクステンションを構える。 この場でどうにかしたからどうなる、という言葉をアイビスは飲み込んだ。どんなことも諦めない。 ロジャーが死んだという言葉も、戻って確かめるまでは信じないとアイビスは決める。 どれだけ非力だろうが、ここを突破して見せる。 幸い、位置関係は悪くない。上昇したいアイビスが、蒼い騎士より高い位置にいる。 このまま、距離を取っていけば、逃げることも可能かもしれない。 じりじりと上昇を続けるブレン。 対して、蒼い騎士の取る行動はアイビスから見ればいささかおかしなものだった。 マントの影から取り出した鞘に剣を納めると、その場で構えたのだ。 (一気に踏み込んでくる……?) それにしても、いささか距離が遠い。この距離なら、一気に加速して切り抜けるつもりとしても回避できる。 アイビスは、相手の背中と足に意識を集中させた。ユーゼスとの戦いで、相手のスラスターの位置は把握している。 どんな加速であろうとも、まずスラスターに着火される。何の推力もなしに急加速はできないのだ。 そこに動きが見えたと同時に、上方に向かってバイタルジャンプ。そして、相手が体勢を立て直すより早く全力でここから離れる。 アイビスは、対処の方法を頭の中で組み立てる。 上昇するブレン。動かない青い騎士。 蒼い騎士には、動く気配がない。確かにやや前傾の姿勢ではあるが、一気に加速しようという姿勢ではない。 このままいけるのであればアイビスとしてもありがたい。 距離が開いていき、完全に相手の射程から逃れたとアイビスは視線を切らずにそう考えた。 次の瞬間、ブレンの右手が飛んだ。 「え……?」 アイビスは、一瞬たりとも相手から目を切っていない。相手は動いていない。スラスターを使ってない。 なのに、斬撃は確かにブレンへ届いていた。アイビスは、映し出された外の光景に、目をしばたたかせる。 一歩も動かないまま鞘から引き抜かれた剣が、細く長くブレンに伸びていた。 アイビスは、姿を変える剣という程度の認識しかなかった。たしかに斬艦刀は姿を変える。 しかし、それは液体金属による形状の変化によるもの。プログラミング次第でその姿は千差万別に変化する。 今の統夜の超射程による居合い抜きは、居合い抜きによる加速をつけつつ、抜ききった刀身を変化させることによって生み出された技。 アイビスは相手が居合い抜きをあびせるための移動を警戒していたが、それはピントがずれていたのだ。 向こうは、動く必要すらなかった。 予想もしなかった痛みに、ブレンの動きが僅かに乱れる。 落ち着かせるため、アイビスがコクピットの中へ少し視線を上げた。 ブレンが、壁に叩きつけられた。 意識を乱した一瞬をつき、蒼い騎士は加速して手をブレンに押し付けたのだ、と揺れる頭で理解する。 金属壁に、ブレンがめり込む。ブレンと相手の体格差はざっと6倍。体の中心に手をあてられると、身動きを取ることができない。 うめくアイビスとブレンに、蒼い騎士は改めて剣をかざす。 バイタルジャンプをしようにも、まだブレンがそうできる状態まで回復していない。 これでは、どこに吹き飛ばされるか分からない状況だ。それに、これだけ密着されると、相手ごと転移してしまう。 八方塞がり、打つ手なし。そんな言葉をそのまま表したような状況だった。 蒼い騎士が何も言わずに剣を絞る。 「ちょっと待って……! なんでこんなこと! そんなに殺し合いがしたいの!? あのガウルンとか、ギンガナムみたいに!」 アイビスの言葉に、初めて蒼い騎士が動いた。 蒼い騎士がまるで人間のように小さく震え、剣が動きを止める。 「俺が……誰みたいだって?」 先程と同じ冷たい声。しかし、僅かに上ずっている。 抑えようとして、抑えきれない感情が漏れ出している。そんな印象をアイビスは感じた。 アイビスは、一瞬迷った。同じことを言えば、逆鱗に触れて今度こそなます切りにされるかもしない。 「俺が、誰みたいだって!?」 もう一度蒼い騎士が繰り返した。 押さえつける蒼い騎士の手に力が増し、ブレンが、さらにうめき声をあげた。 やはり、一人では何もできない。そんな悔しさが胸を突く。 こうやって押さえつけられ、満足にものをいうことすら悩み、ままならない。 こんな、理不尽な理屈を前に。こんな、理不尽な相手を前に。あまりにも無力だ。 アイビスは、聖人君子ではない。このままいけば終わりなのだ。死ぬのは怖い。 けれど、やけくそというわけではないが、このままただ黙って受けてやるのも癪だという思いが膨れ上がる。 こんな言われっぱなしで、黙っているのも違う気がする。アイビスは、息を吸うと、思い切り叫ぶように言った。 「ガウルンやギンガナムみたいって言ったんだよ! そんなに戦ったり、人が殺したりするのが好きなら、一人でそんな世界に行って殺しあえばいい! みんなが力を合わせるのがそんなに嫌い!?」 今度こそ、蒼い騎士が動きを止める。 アイビスはその間に手を抜けだそうと少しでも動くようにブレンに指示を出す。 僅かに緩んだ指の隙間から、腕を差し入れると、そのまま体を強引に引っ張りだそうとした。 しかし、それよりも早くブレンの拘束はなくなっていた。 蒼い騎士は手を引き、刀を鞘に納めている。 「……行けよ」 ぶっきらぼうだが、蒼い騎士は上を親指で指した。もしかしたら、自分の行ったことが通じたのか。 信じられない出来事にぽかんとするアイビスに背を向け、蒼い騎士は降下を始めた。 「俺は、好きで殺してるわけじゃない。殺さないといけないから殺してるんだ。……ガウルンとは、違うんだ」 「じゃ、じゃあもしかして協力して――」 ブレンのすぐ横に、投具が突き刺さる。 ブレンを見ることなく背を向けたまま蒼い騎士が投げ放ったものだ。 「勘違いするな。最後はみんな結局殺すさ。けど、今殺す必要もない。言ったよな。全員死んだって」 その言葉に、アイビスは顔がこわばるのを感じた。 それでも、アイビスははっきりと蒼い騎士に言う。 「そんなの信じないよ。自分の目で見るまで、あたしは絶対にあきらめない」 「みんな死んだんだ。行ったところで何もない。何も起こらない。受け入れたくないことに足掻くことまで否定はしないさ。 けどな……それでもどうしようもないことだってあるんだ。 ……諦めろよ、奇跡は起こらないから奇跡っていうんだ」 蒼い騎士から、ため息のような音が漏れた。 けれど、アイビスの答えは変わらない。 「どんな理不尽なことでも、あたしは諦めない。奇跡なんて起こらなくてもいい。それでも、やってみたい」 自分で言っておきながら、その言葉を心から信じ切れていないのをアイビスは理解していた。 どちらかと言えばそうであってほしいという願望を口に出すことによって、信じる自分を支えるようとする部分が大きい。 「そうかよ」 蒼い騎士はアイビスの言葉にそっけない返事を返すと星の中心へ下りていく。 アイビスはただ、その姿を見ていることしかできなかった。 蒼い騎士が姿を消すのを確認し、アイビスは再び飛び始める。カミーユから教えられた地点へ、まっすぐに。 体がずっしりと重い。進めと指示を出す、自分の思考が濁り、淀んでいる。 この先に、進んでいいのか。 進まなければ何にもならないとは分かっていながらも、考える自分を止められなかった。 光が見えてくる。 人工的に作られた作り物の箱庭の放つ、眩い光はもう目の前だ。 細く狭い通路を抜け、広い空間にブレンが飛び出す。そこは、間違いなくカミーユの指示した地点。 だが、そこにあるのは、戦いによってえぐれ、荒らされた地面と、よく見た機動の腕が二つ。 血だまりのように液体がまき散らされた地面に沈む一本の腕を、壊れ物を扱うようにそっと拾い上げる。 しかし、アイビスの震える意思が伝わったのか、ブレンの腕からそれはこぼれ落ちた。 アイビスは、知っている。これが、間違いなく騎士凰牙のものであることを。 そして、少し離れたところに転がるほうの腕は、キングジェイダーが搭載していた、アルトアイゼン・リーゼの腕であることを。 「ロジャー……?」 もう右から声は聞こえない。 「キラ……?」 もう左から声は聞こえない。 「シャギア……?」 もうどこからも声は聞こえない。 アイビスの声は、どこにも届かない。 ――希望はすでに砕け散っていた。 ■ そこは、星の中心から一層だけ上のエリア。 どこまでも広大でがらんどうな空間に、二機の機体が動き回る。 「……ぐ、ぅう……」 カミーユは荒い息をどうにか抑えようとするが、動悸は全く治まらない。 どうにか地面に設置された緑色のエネルギープールに陣取ることによって、サイバスターのエネルギーは回復している。 しかし、それはあくまで機体の燃料を補充するだけであって、カミーユ自身の魂の燃料を補充するものではない。 迷路のように設置された隔壁の影から、ブーメランのように弧を書く軌跡でデュミナスの爪が姿を現した。 それを、サイバスターはディスカッターで切り払う。 「そこですか?」 殺気を感じ、慌ててエネルギープールからサイバスターを飛行させる。 一拍置いて、エネルギープールが瞬時に沸騰し、緑色の水竜巻を空高くまで起こした。 空から緑の雨が降り注ぐ中、隔壁の向こうからメディウス・ロクスが姿を現す。 「逃げようとしても無駄です。今のあなたが私を振り切ることはできない」 「……いけっ!」 カミーユはメディウス・ロクスの言葉を無視し、カロリックミサイルを撃ち放った。 二発のミサイルは、正確にメディウス・ロクスに飛来し、確かに接触、爆発する。 いや、接触したのはメディウス・ロクスの発生されたスフィア・バリアだった。 カロリックミサイルは、バリアの表面で爆発するが、爆風はすべてバリアでそらされていた。 「何度でも言います。無駄です。機体をこちらに譲渡してください」 カミーユは拳を震わせた。 さきほどから、メディウス・ロクスはあまり積極的に攻撃を仕掛けてはこない。 つかず離れず、時々攻撃を仕掛けてくるだけだ。 理由は単純だ。奴の狙いはサイバスターにあるラプラス・コンピュータ。 サイバスターの撃破ではなく鹵獲を目的としている。サイバスターを破壊しては入手できないのだ。 だが、もしも相手が鹵獲という手段を放棄していたのなら、サイバスターが今どうなっていたかは想像に難くない。 「もしあなたが機体を譲渡するというのなら、あなたの命は保証します。ですから……」 「断るっ!」 サイバスターが再び逃走する。しかし、メディウス・ロクスも正確に距離を取りつつ追いすがる。 「仕方ありません。私が完全になるためには、サイバスターが必要です」 メディウス・ロクスの胸の部分から、一条の光線が放たれた。 サイバスターとはまるで見当違いの場所へ。サイバスターを光線は追い抜き、サイバスターの進路上の天上へ着弾した。 行方を阻むように崩れた大量の瓦礫が落下してくる。カミーユは、汗でぬめる操縦球を握り、意識を送る。 紙一重で瓦礫の隙間を抜けるサイバスター。 それに対してメディウス・ロクスはスフィア・バリアにより瓦礫を弾き飛ばしながらまっすぐに向かってくる。 たちまちのうちに両者の距離は詰まり、振り上げたメディウス・ロクスの爪が、サイバスターを狙う。 カミーユはやはりディスカッターでそれを受け止めるが、それにより動きを止めてしまった。 サイバスターを数mはあろうかという飛礫が叩く。 「ぐ、が、ああ!?」 機体の表面を致命傷にならない程度に質量物で叩く。 なるほど、相手の機動力を奪いつつ、内部に大きなダメージを与えないために適した方法だ。 Ζガンダムの設計なども行ったカミーユだからそう理解できる。 だからこそ、次に続く思考も。結局のところ、相手はこちらを敵とすら認識していない。 捕まえるところまでは確実。負けることなど、傲慢や思い上がりではなく、冷静な判断で思考に入れていない。 地面にたたき落とされたサイバスターのすぐそばに、メディウス・ロクスが音もなく着地した。 いまや、大いなる風の魔装機神も、羽をもがれ地面を這うだけだ。 メディウス・ロクスがサイバスターを踏みつけた。コクピットを中心に、銀色の装甲に亀裂が入っていく。 「何度も言ったはずです。機体を明け渡せば、命は奪わないと。何故あなたは私を拒絶するのですか?」 「お前らに……やれるものなんて……何一つないっ!」 踏まれた状態で、強引にサイバスターが体を起こす。 足が逆に装甲に食い込み、亀裂だけにとどまらず装甲が脱落した。だが、動きは止まらない。 そこから起き上がるとはメディウス・ロクスも思っていなかったのだろう、バランスを崩したメディウス・ロクスは派手に転倒する。 そこに、ディスカッターで本来コクピットがある場所を正確に貫いた。 「無駄です。今の私に、あのお方はいない。私は私の意思で活動している。あのお方を殺すことはできない」 メディウス・ロクスがサイバスターの腕をつかみ、力を込める。 サイバスターが手をディスカッターから離すと、強引にメディウス・ロクスはサイバスターを地面に叩きつけた。 銀色の破片が、暗い基地に設置されたわずかな照明の光を反射し、きらきらと瞬いた。 「あのお方……ユーゼスなのか!?」 「その通りです。偉大な私の創造主。ただの機動兵器でしかなかった私を導いてくださったお方。 あのお方は、私に完全であれと望んだ。そして、私は不完全であるとも。故に、私は完全にならなければいけない」 突然、メディウス・ロクスが饒舌になった。 最低限の言葉しか発していないメディウス・ロクス――いやAI1が、ユーゼスに関してだけは違ったのだ。 「それで……そのために戻ってきたのかよ! 人の命を踏みつけにしてそうなっておいて!」 「あのお方は言った。世界は選ばれたもののためにあると。あのお方は選ばれたものだった。 あのお方の願いは成就されなくてはならない。命に価値があるとするなら、上位者への献上物としてのみ存在する」 「そんな勝手な理屈を!」 全身から装甲を脱落させながら、サイバスターカロリックミサイルを放つが、 やはりいとも簡単にメディウス・ロクスは受け止めた。しかし、カミーユが攻撃を止めることはない。 「あなたのサイバスターを手に入れろとあのお方は言っていた。あのお方の願い、聞き入れてもらえないのですか? 私ならあなたよりもラプラス・コンピュータの力を活用できる。その力は、より正しく使えるもののためにあります」 「言ったはずだ! お前らにやれるものなんて何一つないっ! このマシンは、そんなコンピュータのおまけじゃないんだよ!」 カミーユは、まだラプラス・コンピュータの全貌など知らない。 もしかしたら、それさえ発動させればこの状況をひっくりかえせるかもしれない。 けれど、使う方法がわからない。それでも、この機体ならどうにかできると信じてくれたのだ。 この機体を使い、自分ならあのノイ・レジセイアを撃ち貫けると信じてくれたのだ。 「うあああああああああぁぁぁぁぁあああッッ!!」 目にもとまらぬ速度で腰部にジョイントされた武器をサイバスターが引き抜いた。 ブンドルが託したサイバスターが、中尉が託したオクスタンライフルを構える。 長い砲身が、ほぼ接触状態でメディウス・ロクスに向けられる。 撃ち貫く、というカミーユの意思を受け、サイバスターが引き金を引く。 不意を突かれる形となったメディウス・ロクス。さしものスフィア・バリアもゼロ距離では意味を持たない。 「胸部に損傷……指数34。再生の範囲内です」 それだけで、これほどの力を持つ特機を沈めるには至らない。確かにダメージは入ったが、撃墜までは程遠い。 撃った反動で、サイバスターの手からオクスタンライフルが飛び出し、後方に投げ出された。 カミーユは振り返らない。そのまま、サイバスターで直接メディウス・ロクスにぶつかっていく。 これだけの質量差がある状態で体当たりという攻撃を選択するのは、一見下策に見えるかもしれない。 メディウス・ロクスは反射的に爪を振り上げようとしたが、その動作を中断した。 何故動きを止めたのかカミーユは分かっている。あのまま払うように攻撃をしてしまえば、今のサイバスターでは砕け散ってしまうかもしれない。 メディウス・ロクスはサイバスターを撃破できない。本体であるAI1が、至上の存在と崇めるユーゼスがかけた呪いだ。 カミーユはその間にメディウス・ロクスの胸に飛び込むと、刺さっていたディスカッターを再び掴んだ。 サイバスターの全重量を一気に剣にかける。かける、と言っても何をしているわけではない。 くずおれるサイバスターに剣を握らせているだけだ。だが、それによってディスカッターは縦にメディウス・ロクスの装甲を切り裂いた。 「指数79に増大。ですが戦闘続行は可能ですね」 先程のようにサイバスターを上から抑え込もうと放たれるメディウス・ロクスの剛腕。しかしカミーユは着地と同時に後方に飛んでいる。 大空を飛ぶはずのサイバスターが、地面で跳ねるしかない。それでもカミーユは止まるわけにはいかない。 跳びすさった場所にあるのは、後ろに飛ばされたオクスタンライフル。地面を転がりながらもしゃにむにそれを掴むと、再び敵へと照準を合わせた。 選択するのは、Bモード。体全体でライフルを抑え、撃鉄を引く。一発。二発。三発と繰り出される実体弾。 その反動が、サイバスターを揺らす。 撃ち出された砲弾は、メディウス・ロクスが発生させたスフィア・バリアにあっさりと阻まれる。 その時、オクスタンライフルが地に落ちた。 サイバスターのマニピュレータが限界を迎え、片手が物を掴むという機能をついに失う。だらりと腕が垂れ下がった。 サイバスターが、弱弱しくスラスターを吹かし、5mばかり距離を取った。 メディウス・ロクスはバリア表面で起こった爆煙を裂き、サイバスターに肉迫する。 再び振り落される大振りな爪をサイバスターは回避する。しかし、かわしたはずの爪が、サイバスターを叩いた。 それが、腕を振り落すと同時に放たれた肘の爪であることを、カミーユは受けてから理解した。 「今のあなたがこれほど戦えるとは予想外でした。それを予測できない私はやはり不完全であるということでしょう」 かけられる言葉。しかし、カミーユは沈黙という答えを返す。 「ラプラス・コンピュータは私に組み込まれ、あのお方が使ってこそ意味があります。 あなたがサイバスターを操縦する必要性はないのです。使うのは、あのお方と私でなければならない」 相変わらず、ユーゼスを称賛する時だけ饒舌になるメディウス・ロクス。 こちらに機体を渡すように勧告しているのか、ユーゼスの偉大さを他者に知らしめようとしているのかまるで分からない。 煩わしいメディウス・ロクスの声を無視し、カミーユは歯を食いしばり、無言で集中する。 「気絶しましたか? それなら都合がいい。あなたの命を今からもらいます。 全ての命も、全ての力も、全ての知識も、全能の調停者たるあのお方のためにあるのですから」 そう言うと、メディウス・ロクスはサイバスターに歩み寄る。 正確にこちらのコクピットだけを潰すつもりだろうとカミーユは当たりをつけた。 動き回る相手ならともかく、停止したこちらをそうやってしとめるのは難しくない。 メディウス・ロクスの爪が、ゆっくりと振り上げられた。一部のずれもないように、正確に叩きつぶすための速度だ。 その爪が、サイバスターに振り落され――― ――――――ない。 メディウス・ロクスの背面スラスターが巨大な火を噴いた。それによって盛大にメディウス・ロクスは前方へ吹き飛ぶ。 押しつぶされぬようカミーユは、ちぎれそうな意識をかき集め、サイバスターを迫る影から抜け出させる。 心の中、小さくカミーユはアムロに謝罪した。こんな謝罪は意味がないと分かっていても、心からカミーユはそうしたいと思った。 「う、あああアああ………いっタい、なニガ……」 メディウス・ロクスの電子音声が乱れる。それほど内部に対しても深刻なダメージということだろう。 何が起こったのかも把握してないことは見て取れる。 メディウス・ロクスは、爆風のため見落としていたのだ。脱落したサイバスターの銀色の装甲の中に、白いものが混じっていたことを。 それは――カミーユが創造した三機のハイ・ファミリア、その残った一体。 今のカミーユの精神状態では、自在にハイ・ファミリアを操ることは不可能だ。 ただ漫然と射出して使おうものなら、動きの鈍ったそれはすぐに落とされるだろう。 だから、カミーユは待ったのだ。ハイ・ファミリアをメディウス・ロクスに気付かれず、致命的な一撃を与えるチャンスを。 ハイ・ファミリアの混じった残骸を踏み越え、攻撃に気を回した隙をつき、カミーユは自身を投影した分身をメディウス・ロクスのスラスターに飛び込ませた。 そして、最奥で力を放ったのである。60mもの巨体が故に、スラスターの噴出孔も大きい。それによって生まれた死角。 直結した己のエネルギーに火がつけば、どれだけの機体であろうとも致命傷は避けられない。 サイバスターにメディウス・ロクスを破壊する力はない。ならば、メディウス・ロクス自体の力を使えばいいのだ。 A・R(アムロ・レイ)の名を冠したハイ・ファミリアは、最期に敵を打ち倒した。 自分の意識を分化させたハイ・ファミリアが撃墜されたことによる精神的な痛みを必死に抑え、カミーユはサイバスターを操作する。 動くほうの手でオクスタンライフルを拾い、サイバスターは振り上げた。 「何ゼ……ラプラス・コンぴュータハ……ソの力は……あのお方のタメにあルのに……ナぜ、あなたは……」 メディウス・ロクスが意識を持って稼働しているなら、撃墜されることはすなわち死を意味している。 だと言うのに、いまだメディウス・ロクスが口にするのはユーゼスのことだった。 サイバスターの力は、ユーゼスこそふさわしい。カミーユには、要らないものだと信じて疑わぬ声。 その言葉が、カミーユには我慢できなかった。沈黙の反動からか、カミーユの口からは叫びがあふれた。 「ふざけるなッッ!! そんなにこのマシンが、サイバスターが大切か!? 人の命を平気で踏みにじってまで、そんなに欲しいのかよ!? ユーゼスが言った理想? 完全になる!? いつもいつも脇から見ているだけで、人を弄べる奴がそう言うんだ! 何も分かっちゃいない癖に知ったようなことばかり! 俺たちは考えなしの案山子なんかじゃない!」 処理しきれない感情が、白濁とした頭の中を駆け巡り、どうしていいのか分からなくなってくる。 「お前だって同じだ! ユーゼスの、ユーゼスのってユーゼスのことを鵜呑みにして、他人の代弁者のつもりか!? 人のこと一つ考えられない奴が、人の命を平気で摘みとれる奴に何がわかるって言うんだよ!?」 「ワタしは……あのお方の……」 「黙れよ! 目の前の現実一つ見えてない奴が! 過去に縛り付けられて、それだけしか考えられなくなった癖に!」 カミーユは、メディウス・ロクスの言葉を遮る。一息に言い終えて息が切れる。先程から荒い息が、さらにひどくなる サイバスターはまっすぐにオクスタンライフの銃身を、メディウス・ロクスの本来核がおさめられているはずの空洞に差し込んだ。 オクスタンライフルにもついに限界が訪れる。何度となく刺突にも使われたことによって、耐久力はすでになくなっていた。 空洞に飲み込まれるように、オクスタンライフルが押し込まれて消えてく。 オクスタンライフルの全てが空洞に飲み込まれたと同時――エネルギーシリンダーに火がつき、それが実体弾を巻き込み炸裂した。 体の中から火を噴き出し、紅蓮にメディウス・ロクスが包まれる。手が、足が、胴がばらばらに裂け、四散する。 「ゲンじつを見えてないノは……アナたのほう……もはや、あなたに、タタカうチカラは……」 ――グシャリ。 最期まで人の気を逆なでする言葉を吐くメディウス・ロクスの頭をサイバスターは踏みつぶした。 「分かってるさ……けど、許せるかよ……こんなことを平気で出来るような……」 この身体に代えてでも、ノイ・レジセイアだけは。 カミーユは、絶対に許せない。許せるわけがない。 クワトロ大尉を、アムロ大尉を、多くの人々を理不尽な殺し合いで奪ったことが。 皆、帰る場所があった。帰りを待ちわびている人がいた。まだしなきゃならないことがあった。―-死んでいい人じゃなかった。 それを実験なんてものの使い捨ての道具のように、安全な場所から一方的に殺した。 挙句、世界を作ると。人の心も大事にできないような存在が作る世界のために、殺された。 歯を食いしばり、唇も噛む。口から流れ出る血が、どうにかカミーユの意識を繋ぎとめる。 一瞬でも気を抜けば、どこまでも落ちていける。カミーユはその事実を感じていた。でも、それをするのは、まだ先だ。 今は、足をとめちゃいけない。アイビスが登って行った空をカミーユは一瞬見上げた。 そこには、無機質な天井があるだけだ。その先をカミーユは見通し、サイバスターを歩かせる。 結局、ノイ・レジセイアと戦えるのは自分だけだ。キラも、シャギアも逝ったことを、カミーユは自分の力で漠然と理解していた。 ロジャーの気配も消えたことも。残りは、ノイ・レジセイア。デュミナス。自分。そして、よくわからない大きな気配と、アイビス。 星の中に感じる力はそれだけだ。 サイバスターが、体を引きずり進む。もはや、体のどこにも無傷な場所はない。 いつ機能停止してもおかしくない状態だった。 ――もし、この世界に奇跡を起こせる存在がいるならば。 ――希望の力から生み出される電子の聖獣がいるならば。 カミーユは、十分にそれに適合するだけの条件を持っていたと言えるだろう。しかし、そんな奇跡はあり得ないのだ。 この実験を起こすに際し、ノイ・レジセイアが破壊したものが二つある。 一つ、希望より無限の力を引き出す不死鳥を象った七体目の電子の聖獣。 二つ、舞台の上を動かし、納めるための機械仕掛けの神〈メガデウス〉。 この二つは、もはやこの世界のどこにも存在しない。カミーユたちを助け、導くものはもうどこにもない。 舞台に全ての人はあげられ、全ての札は開かれた。勝つも負けるも、ここにあるものだけが決することができる。 →ネクスト・バトルロワイアル(3)
https://w.atwiki.jp/srwzsrwz/pages/67.html
第29話 『アウトサイダー』 勝利条件 敵の全滅 イザークとオルソンの撃墜(ザフトとチラムが現れた後) 敗北条件 味方戦艦の撃墜 ツィーネの撃墜 桂の撃墜 SRポイント獲得条件 3ターン味方フェイズ以内にエマーンを全滅させる 難易度 難易度 EASY NORMAL HARD SRポイント ステージデータ 初期味方 初期敵 エマーン兵士少数 味方増援 ある程度敵を倒すと桂・リーア・マーイ・シャイア 敵増援 桂らと同時にエマーン兵士少数+エマーン軍の戦艦1隻出現 エマーン軍を全滅させるとザフトとチラム軍が出現、どちらも少数 ちなみにザフトにはイザーク、チラムにはオルソンとアテナ+αが現れる 敵データ 初期 機体名 パイロット LV HP 最大射程(P) 獲得資金 PP 数 撃破アイテム 備考 ----- --------- -- -- ---------- ------ -- -- ----------- ---- 増援 機体名 パイロット LV HP 最大射程(P) 獲得資金 PP 数 撃破アイテム 備考 ----- --------- -- -- ---------- ------ -- -- ----------- ---- 敵撤退情報 攻略アドバイス 加速か迅速が使えるキャラを速攻で前進しました ガンダム系だとウィッツを隊長にすると移動力+1なので、それも考えて構成するとベスト エウレカはTRI状態で突っ込んで程よく改造してあれば良い具合に倒せます ホランドとジロンは迅速で突っ込んで応戦、ポイント狙いじゃなければマッタリ攻略すればいいと思います イザーク出現時、ニートさんからザフト軍はなるべく撃墜しない方が良いと言われました。 ここでのザフト軍MS撃墜数が何かのフラグになったりするかも? クリア後入手物資 強化パーツ --- アイテム --- 機体 --- 資金 --- BS --- この時点でアイテム「ホンコン土産のビデオ」がある場合バザーイベントが発生、アイテムの項目に「エマーン土産のペナント」が並ぶ。 第28話『魂のコスプレイヤー』 第30話『アクペリエンス』
https://w.atwiki.jp/magic-cannon/pages/11.html
ボス攻略 ボス攻略ボス1 ボス2 ボス1 攻略情報1 攻略情報2 ボス2 攻略情報1 攻略情報2
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/394.html
◆YYVYMNVZTk ―――― 眼前にそびえるは、人に非ず。人知の及ぶものでも非ず。 眼前にそびえるは、人に非ず。人知の及ぶものでも非ず。 なればそれは一体何だ、問うても答える者在らず。 ならばこれは一体何だ、問うても答える者在らず。 止める力は有らず。伝わる言葉も有らず。 抗う力は有らず。発する言葉も有らず。 ただそこに広がるは、絶望だった。 だがそこに広がるは、希望だった。 覇気と共に繰り出された斬撃が、まるでケーキにナイフを入れたかのような気軽さで地を抉る。 ざくりざくりと、周囲に破片を撒き散らすこともなく綺麗に引き裂いていく。 先ほどまでロジャーとアキトが足場としていた数十メートル級の機動兵器が格闘してもなお崩壊することなく原型を留めていた物質が、いとも容易く、破壊――いや、『切断』されている。 もしも統夜の振るう大剣が最初からロジャーたちを狙っていたならばと考えると、どうもぞっとしない話になりそうだ。 幸か不幸か、ヴァイサーガの斬撃はロジャーたちとは見当違いの方向へと向けられた。 威嚇というよりは、ただ単に試し切りを行ったという印象。 パイロット自身自らの変化を完全に把握できていたというわけではないらしい。 だがそれは、ほんの数分前までの話。 更に一振り。振り、返す。二つの太刀筋で、しかし地に生じた亀裂は完全に一。 最後に握りを確かめると、騎士は今度こそロジャーたちと相対する。 鬼気迫るを通り越し、むしろその挙動は平静。そしてその動作の一つ一つは無駄なく、完全に洗練された超一級のもの。 幾多の戦いを経て、禁忌の力を得て、紫雲統夜は“もしも”の世界と同等に、或いはそれ以上の強さを手にした。 とはいえ、二日間という短時間での急激な成長は何らかの代償無しに得られるものではない。 統夜が失ったものは、全て。 統夜を慕った少女たちも、統夜が愛した少女も、あの、厳しくも優しかった日常も――全て、儚いうたかたの夢だったかのように、影も形もなくなってしまった。 血まみれの手に残ったのは、一振りの剣だった。 何も守れなかった力。でも今なら、もしかしたら何かを取り戻せるかもしれない力。 「テンカワ!」 「聞こえている。……来るぞ!」 ヴァイサーガがその剣を腰に構え、全身の気を集中させる。 数瞬ごとに纏う剣気は倍増。剣を中心に朧気に漂うそれは、ゆらゆらと揺れながら形を整え始め、淀みなく巨体を覆う。 なみなみと注がれた水が、やがて器から溢れ出すように――その張り詰めた気は、一瞬にして荒々しく形を変え、爆発する。 疾く。何よりも疾く。そして強く。刃先は弧を描き、真っ直ぐに標的へと伸びていく。 神速と形容するに相応しい速度を更に加速させ、切っ先は音の壁を超え衝撃波さえも生み出していく。 如何な達人であろうと、その剣を完全に見切ることは至難の業だ。まして、避けることなど不可能。 ただただ速さを求め、極限まで研ぎ澄まされた剣。皮肉なものだ、と統夜は自嘲する。 何よりも、速さが足りなかったからこそ全てを失い――全てを失ってから初めて、何よりも速い剣を手に入れた。 これが皮肉でなくて、何と言えるだろうか。 全てを救うには、自分の手はあまりにも小さすぎた。指の隙間を抜けるようにみんな零れ落ちていった。 今から自分がやろうとしていることは、その残滓を拾い集めて無理やりに繋ぎ合わせるようなことなのかもしれない。 元通りに戻るはずもない。破れた紙をまた取り繕っても、その傷跡は絶対に残ってしまって、決して純白には戻らない。 それでも。 時が未来にしか進まないだなんて、誰が決めた? たとえ今からやることが砂漠の砂の中から特別な一粒を探すような、時計の針を逆に回してみせるような、到底不可能なことだったとしても。 ただ、自分のエゴで。他の誰もが望まなかった未来が訪れたとしても。 紫雲統夜は、自らの意思で――何よりも、強い心で決めたのだ。 取り返すと。取り戻すと。あの優しき日々を、もう一度この手に――と。 一撃必殺。これ以上無駄にする時間はないと、統夜は瞬き一つ許さぬほどの間隙に鳳牙との距離を詰め、白刃を閃かせ―― しかし、絶対不可避のはずの斬撃は、鳳牙の巨躯を裂くことはなかった。 剣は確かに鳳牙の胴へと横一直線に吸い込まれていった。 敵機を一撃で切り裂くに足る、紫雲統夜渾身の横一文字である。 だが、受けられた。鳳牙はダイゼンガーの置き土産である斬艦刀を器用に扱い、完全に勢いを殺されたヴァイサーガのガーディアンソードをいなし、再び距離を取る。 統夜の手に残るは、DFSを通じて返ってきた不可思議な感覚。払いの速度が最高潮に達するその瞬間に、突如空間に生じた、ぞわりとした感触。 衝撃を緩和したなどという生温いものではない。まるで空中にダイヤモンドの見えない壁があったかのような、絶対的な防御。 見えない壁に阻まれたヴァイサーガの剣はその勢いを九割方殺され、一拍二拍遅れてようやく鳳牙に辿り着くという有様だ。 それだけの隙が生まれ、剣の勢いが死んでしまえば、たとえそれまでの斬撃がいかに速く強力であろうとも関係はない。 いとも容易く見切られ、捌かれた。屈辱的なまでに、だ。 鳳牙の傍に、大猪の姿が一瞬現れ、また消える。ガトリングボア――創造を象徴し、その属性は光である電子の聖獣だ。 ガトリングボアの特殊能力クロックマネージャーは、一定範囲内の時間の流れを止める力を持つ。 ヴァイサーガの斬撃を予感したその瞬間、ロジャーは鳳牙とアルトアイゼンを包むように時を操る能力を行使したのだ。 完全に時を止めた物質は、何があろうと絶対に破壊されない、最硬の物質となる。たとえそれが、大気中に漂う分子だったとしても。 だが、ヴァイサーガの剣はその威力を大幅に相殺されたとはいえ、止められた刻を切り裂いた。 (時を操るだなんてとんでもない能力を持つこちらが言うのも何だが……それでも完全に足止め出来ないとは、とんだ化け物だな) ロジャーの額を冷たい汗がつつと流れる。今はその汗をぬぐう時間すらも死に繋がりかねない。 ただの斬撃一つで物理法則さえも無視してしまうヴァイサーガを前に、真っ向から立ち向かうのは自殺行為。 しかしクロックマネージャーを常時発動させるわけには行かない。時を止める――その超常の力ゆえに、要求されるエネルギーもまた大きい。 長時間の使用のためには、中途のエネルギー補給は不可欠だ。しかし鳳牙のエネルギー補給といえばハイパーデンドーデンチの交換である。 そのような隙を、眼前の人鬼は与えてくれるだろうか? その答えは聞かずともである。 ならば交換の前に短期決戦を挑めば――いいや、それは不確かな戦略である。 たとえ全力全開を力尽きるまで続けたとしても、それでも眼前の騎士を倒せるという保障はないのだ。 ヴァイサーガの復活の際にロジャーとアキトが想起したイメージは、只の特機に過ぎなかったヴァイサーガのそれではない。 その野望を仮面の下に隠し、己が欲望のために謀略・暴虐の限りを尽くした魔人、ユーゼス=ゴッツォ。 あの男が乗機とした半人半獣半神の怪物である超神ゼスト――復活したヴァイサーガが放つ全身が粟立つような邪悪なプレッシャーは、ゼストのそれに酷似していた。 「……ユーゼスの乗っていた機体は、自己修復と自己進化の能力を備えていた。 散り散りになったゼストの装甲片があの機体を新たな触媒とした可能性は否定できない」 左腕のチェーンガンをヴァイサーガへと放ちながら、アキトは苦々しく呟く。 ユーゼスがこの地で消滅したことは、はっきりとした確証はないものの薄々と感じていたことだ。 だがまさか、ユーゼスの遺した悪意が、このような形で発露するとは予想だに出来なかった。 アルトアイゼンが撃った銃弾がヴァイサーガに着弾するも、装甲の表面で弾丸はひしゃげ微細な傷を残すばかり。 しかもその傷さえも、見る見るうちに再生していく。 舌打ちを一つこぼすと、アキトは騎士へと加速。未だ鳳牙の傍を離れぬヴァイサーガの脚部に狙いをつけ、右腕を突き出す。 確かにヴァイサーガの挙動は、並の機動兵器では追いつけない速度だ。だが、瞬間的な爆発力ならばアルトアイゼンも決して遅れはとらない。 地を蹴ると同時に背部ブースターを噴出させ、更なる加速を得る。単純に、シンプルに、古鉄は速度を上げる。上げ続ける。 もう一機の接近を確認したヴァイサーガは、回避行動を取らんとするも、 (――機体が、動かないだって!?) まるで両の手足を打ち付けられたかの如く、ヴァイサーガは微動だにせず統夜の意思に逆らう。 にやりと笑うのはロジャー=スミスだ。再び現れる緑の巨猪が、鼻息を荒らげる。 クロックマネージャーによる時間停止。今度は機体そのものをその力の対象としたのだ。 とはいえ前回の行使からそう間もなく、更にはエネルギー残量の関係もあり大幅にパワーダウンしていた時の拘束は完全に騎士を繋ぎ止めることが出来なかった。 突き出した杭が目標を撃ち貫かんとするその瞬間、統夜は機体のコントロールを取り戻す。 同時に右足に走るのは、DFSによりフィードバックされた痛み――ヴァイサーガの右脚部が貫かれた証だ。 慌てて距離を取るも、受けた傷は深い。ヴァイサーガの神速を支える脚部が損傷したということは、その剣にも多大な影響を与える。 機動力の高さを攻守の要とするヴァイサーガにとっては大きな損失だ。 だが同時に、敵の手品のタネも見抜いた。恐らくは、物体を停止させる能力。 しかしいくらタネが割れようと、超能力としかいいようのない反則級の力の前では対抗のしようがない。 拘束が絶対的、永久的なものではないといっても、コントロールを奪われた瞬間に敵の最大火力を叩き込まれればなす術もなく御陀仏。 ――また、全てを失ってしまう。 「う……うおおおっ!」 感じた虚無を本能が忌避する。雄叫びと共に、再び敵との距離を詰めていく。 相手がどんな力を持っていたとしても、それを使われる前に斬り倒してしまえば何の問題もないのだと自分に言い聞かせる。 鳳牙の傍に緑の猪のようなものが現れたとき、敵の停止能力は発動した。 そのことから能力の持ち主は鳳牙だと見当をつけ、統夜は鳳牙へと向けて牽制として五大剣を投げつける。 同時に接近。ガーディアンソードを、今度は袈裟切りの形で振り下ろす。 だが今度は、見えない壁を作られたわけでもなく、振るう腕の操縦権を奪われたわけでもなく、ただ単純に――受け止められた。 向こうにも余裕があったわけでもない。あと半秒も反応が遅れていれば、ヴァイサーガは何の苦もなく鳳牙を叩き切っていただろう。 それでも鳳牙は、ロジャー=スミスはヴァイサーガの太刀を斬艦刀で受けたのだ。 ――速さも重さも、格段に落ちている。 受け止められながら、しかし酷く冷静に統夜は自分の剣を省みる。 脚部の損傷は、予想以上に戦力に響くものだった。 剣を振るう、という行為は、ただ腕の力のみで行うものではない。全身で振るって、初めて剣は力と速さを得る。 巨躯を支える脚が十全でなければ、振るう剣もまた不完全。 先手を取られ、そしてそれは致命的な一撃となった。 「紫雲統夜……だな。こうして相見えるのは初めてだが私のことは知っているだろう。 ネゴシエイター/ロジャー=スミスだ。私は君との対話を望んでいる。君が了承してくれるのならば、一時休戦といかないか?」 ヴァイサーガの戦闘力がロジャー操る鳳牙でも対抗しうるまでに低下したことを感じ、ロジャーは統夜へと呼びかける。 先の剣技を見るに、機体そのもののスペックは異常なまでに上昇したもののパイロットはそのものは正気を保っている。 そう見抜いたロジャーは、紫雲統夜へ交渉を持ち掛けた。 統夜からの返答はない。だが同様に、こちらを攻撃する挙動もない。 殺気そのものは、微塵も衰えてはいないがね、と止まらない冷や汗に嫌悪感を覚えながらロジャーは矢継ぎ早に言葉を発していく。 「見ての通り、既に事態は単なる殺し合いなどに留まらない――完全に理は崩壊しているのだ。 それでもなお、君は戦おうとするのか?」 そう。既にバトルロワイアルはその形式を保ってはいない。 異形の怪物が作り出した箱庭も、参加者を縛る首輪も、全て、完全に、消えてしまった。 そのことは統夜も理解しているはずだ。殺し合いを続ける必要などないと。 このおぞましきイベントが滞りなく進行していたならば、もしかすると本当に、最後の一人だけは生きて帰ることが出来たのかもしれない。 だが、この状況は――恐らく、いや、確実に主催者の思惑から外れたものになりつつある。 なら最後の一人になったところで生きて帰れるなどという保証はない。 「君も私たちの狙いは知っているだろう。あの怪物を倒し、ここから生還する。 それを為せる可能性は、極めて低いかもしれない。だが、私たちはあの箱庭から逃げ出すことは出来たのだ。 千に一つ、万に一つの可能性だったとしても、ここから生きて帰ることは、不可能ではないはずだ。 紫雲統夜。私たちは共に戦えないだろうか? 今更手を取り合うことは、出来ないのだろうか?」 もしも、この状況が数時間早く訪れていれば。 或いはこの場に及んで、統夜は逃げ出していたかも知れない。 だが今の統夜には逃げる選択肢など存在しなかった。そもそも逃げる先など、とうに失っていた。 肯定も否定もせず、ロジャーの言葉を聞く。正確には、聞くふりをする。 うすら寒いその言葉は、統夜には何の実感ももたらさなかった。 上っ面を撫でただけのような軽い言葉だとしか思わなかったし、感じなかった。 その言葉に理と利はあるのだと、そのくらいは分かる。 ――それがなんだっていうんだ。 あんたたちと一緒に行けば、テニアは生き返るのか? 俺たちはみんな、元通りの暮らしが出来るのか? 出来ないんだろう。出来ないに決まってるんだ。 「ネゴシエイター。良かったよ、あんたと話せて」 ぽろりと、本音が口をついた。掛け値なしに、本心だった。 「あんたの言葉は俺には届かない。それはつまり、もう俺は、引き返さないってことなんだ。 もう一度、最後にそれを確かめられて本当に良かった。本当に……本当に嬉しくて、反吐が出るさ!」 ロジャーが何か叫ぶが、統夜には届かない。 手元のコントロールパネルでDFSの感度調整。脳波とのシンクロ率を最大に設定。 明確な敵意と殺意を、100パーセントそのままにヴァイサーガへと伝えていく。 心の奥底から沸々と湧き上がる感情が、ヴァイサーガの原動力となっていく。 「待て、統夜!」 「五月蠅い」 ロジャーが御託を並べている間に、ほんの少しだが脚の負傷は回復した。 全快にはほど遠いが、先のように無様な姿を見せることはなさそうだ。 「ヴァイサーガ……あと少しだ。もう少しだけ、無理をさせる。付き合ってくれるよな?」 自律ユニットを持たないヴァイサーガからは、勿論返答もない。 だが統夜の意思に応えるように、その出力を大きく上げていく。 良い相棒を持てたと、統夜は素直に思った。 ヴァイサーガがいたからここまで生き残ってこれた。 こいつとなら、最後まで行けると、そう思える。 純粋なその思いは、とても青臭くて、甘すぎるものなのかもしれない。 でもきっと――そんな思いさえもなければ、不可能を可能にすることなど無理なのだから。 だからきっと。今この瞬間、いや、これから先もずっと。 「俺は――いや、俺たちは、負けない」 はっきりと言葉にしてみれば思っていたよりもすっと口から出る。 気恥ずかしさや気負いはない。平静の心のまま、統夜は剣を構えた。 ◇ ――意識が、とある声によって呼び戻された。 気を失っていた時間はどれほどのものか、アイビスは知らない。 とても長かったのかもしれないし、もしかしたらほんの数秒だけだったのかもしれない。 しかし今さらそんなことを考える余裕はない。 今眼前に広がる光景が、いったい何を意味しているのかアイビスには理解出来なかった。 謎の乱入者は、彼女が全く知らぬもの。 機体のフォルムも、操縦者の声も、ここに連れられてくる前にも後にも触れたことのないものだ。 そして、その異質で未知のものが―― 「あなたと合体したい」 予想もしていなかった事態に、生まれるのは意識の空白。 いくつもの疑問符が頭の中に浮かび、しかしその問いに対して納得できる答えは一つも思い浮かばない。 ここにきて、さらに現れる不確定要素――それもきっと、悪い意味での。 何故、何故こんなにも上手くいかないのか。 余りにも理不尽な現実に涙がこぼれそうになる。 思い返してみれば、自分はいつだってそうだった。 いくら努力を重ねても――現実というものは、いつも厳しく非情な結果だけを突き付ける。 落ち込んでみたり、時には泣いてしまったり。 努力が実らなくても、『どうせ自分は劣等生なのだから』と理由を付けて、頑張ったポーズだけしてみて。 夢に向かって頑張ってるだなんて、そんな自分は、いつの間にか何処かに置いてきてしまっていた。 最初は、違ったと思う。空を飛びたい――純粋な思いが胸の内を占めていて、それに向かって一直線に進もうとしていた。 けれど夢への近道だったはずの訓練は日々のルーチンワークとなっていて、どこか心は倦んでいた。 自分はナンバーワンにはなれないんだと、はっきりとではないけど、そういうことを理解していたんだと思う。 頑張って前へ進んでいるふりだけして、実はその場で足踏みをしていただけの日々――だった。 そしてフィリオが死んで――私の足は、完全に止まってしまった。 もう、頑張るふりさえもしない。自分のことを見ていてくれた人はいなくなってしまったから。 ただ死んでないだけの毎日が続いていた。 生きようだとか、頑張ろうだとか、そんな前向きな考えが浮かんでもすぐに消えて、無力感に襲われる。 ツグミがいなければ、本当に野垂れ死んでいたかもしれない。 いや、死ぬことは怖かったから、やっぱり死なないくらいに無意義な時間を過ごしていたのかな。 食べて寝て、身銭を稼いで、永遠に続くかと思ってたループが突然途切れてここに連れてこられた。 それでも私は変わらず、いつものように人に迷惑をかけることしか出来なくて。 こんな――こんな自分のために、どんどん人が死んでいってしまった。 だけど今度は、足を止めるわけにはいかなかった。引き継げ、と言われたから。 私のために命をかけてくれたみんなのためにも、その分まで私が精一杯生きなければいけない――そう思った。 なのに私は、結局のところ具体的に何をすればいいのか分かってなくて、あまり役に立たない、そんな存在のままだったように思う。 何がいけなかったのだろうか。 確かに私は、操縦技術だって決して高くないし、頭だって良くない。 みんなと比べて、優れてるところなんてない。 「……アイ、ビス」 「――カミーユ!? 無事なの!?」 「ああ、なんとか。だけど、これは――」 カミーユの顔に浮かぶのは焦燥と困惑。 既に状況は取り返しのつかないところまで来ている。ビッグクランチ――終焉へと近づいていく、この宇宙。 収縮を続け、全てがゼロになり、超新生を経て、再び宇宙が創世される――その臨界点まで、どれほどの猶予が残されているのか。 刻一刻と悪化していく状況に対して、しかしカミーユたちにはもはや打つ手はなかった。 そこに突如として出現した、不確定要素。 閉ざされた世界に無理矢理に侵入してきた次元を超えるほどの力の持ち主。 そしてカミーユは極大にまで肥大化したNT能力により、其のものの正体を直感する。 それが真実ならば状況は決して好転などしていない。 出来ることならば何かの間違いだと信じたい。だがそれは紛れもない事実なのだ。 あいつはゼストのなれの果てだ。 ここまで来るのに、永遠とも思える時間を費やした。 目指したのは完全。創造主が望んだ、人をも、神をも超える存在。 しかし――足りなかった。 幾年月をかけて力を取り戻しても、かつて創造主が望んだであろう完全には程遠かった。 何が足りなかったのか――候補は幾つも上がったが、そのどれもが決定的なものではなかった。 そして、ある結論に至る。足りなかったものは、アインストの力であると。 主は最初からアインストの力を求めていた。ならば足りないのは、それなのだろう。 しかし――いなかった。 AI1が、いや、デュミナスが成長した時間軸に、アインストという存在はいなかった。 このままでは自分はデュミナス(間違い)のままだ。 それは嫌だった。 故に、時間を――次元を超える力を欲した。 アインストが確実に存在した、全ての始まりの時へと再び戻るために。 デュミナスが力を取り戻した時代に時流エンジンが発明されたのは幸運であった。 そしてデュミナスは時を超える力を手に入れた。 「我と……合体」 「そう。私は願う。あなたと合体したいと。あなたと共に、完全なる――超神へ」 デュミナスの言葉に対し、蒼色の少女は唇の端を軽く釣り上げる。 少女の口から発せられるのは、拒絶の言葉。 「……否。断じて……否。我が望むは……完全なる世界。そして……その監査。 その世界に過ちは……必要ない。我は……不完全な存在を……拒絶する」 既にノイ・レジセイアは完全を手にしている。 このままこの宇宙を終わらせ、新たな――静寂なる、完全なる宇宙を創世し、永遠にその世界を見守り続けることで、レジセイアの望みは叶えられる。 今さら不完全な存在であるデュミナスを取り入れる必要も、協力してやる義理もない。 デュミナスは哀れな存在である――憐憫、そして蔑笑が自分の中で生まれていたことに、少女は気付く。 感情だ。 個体では脆弱なタンパク質の塊に過ぎない人間が、時にアインストを超える力を生み出す――その源の一つが、感情であるとレジセイアは考える。 不完全が完全を超える――その一因を、レジセイアは得たのだ。 微かだが、確かな歓喜を覚えながら、少女は右手を上げ、攻撃の合図とする。 デュミナスは不要な存在だ。今ここで処分しても何の問題もない。 少女の背後に佇む鬼――ペルゼイン・リヒカイトが殲滅の光を放つ。 白光は刺し穿つ剣となり、デュミナスを貫いた。 「……なぜ」 デュミナスは問う。何故自分は過ちとされるのか。 生まれてから、ずっと戦い続けてきた。自分の存在が決して間違いなどではないと証明するために。 「あなたも私を否定するのか」 自分を望むものは誰もいなかった。 孤独だった。故に、自らの分身を生み出そうと、そう考えたこともある。 だがその選択肢を選ぶことはなかった。 創造主が目指したのは、完全なる個。いくら眷族を生み出そうと、それでは間違いを正すことが出来ない。 「ならば私は……その否定と戦おう」 刺し貫かれた傷もそのままに、デュミナスは拳を握る。 四の拳と二の翼を持つその姿。トリトンと呼ばれる、デュミナスの最終形態。 永遠とも思える歳月の果てに、ラズムナニウムはメディウス・ロクスとは違う、新しい姿を模索した。 そして生まれたこの姿は、戦闘力のみならず、全ての面でメディウスを超えている。 握られた拳が、裂破の勢いで幽鬼へと向かい――加速、加速、加速! 音速の壁を優に超えるそれを、しかしペルゼイン・リヒカイトは悠然と受け止める。 無論、受け止めた側も無傷ではすまない。受けた右掌は砕け、五指のうち四指を失う。 しかし消失した四指が、瞬く間に再生する。アインスト従来の再生力にDG細胞による強化分を加え、その速度は従来の数倍にも及ぶ。 「無駄……無意味……無力」 ペルゼイン・リヒカイトの両肩に備えられた鬼面が、音もなく浮遊する。 くるりくるりと回転するそれの周りに、薄らぼんやりと影が見え始めた。 次の瞬間、影は実体化する。ペルゼイン・リヒカイトを幽鬼とするならば、現れたのはその眷属である悪鬼。 青白んだ光を漂わせ、幽鬼の両脇に這うそれが、蒼の光を無差別に放つ。 全周囲に向けた砲撃に対し、回避は不可。デュミナスは甘んじてそれを受けざるを得ない。 更に増える傷。デュミナスとて自己回復の術は備えているが、戦闘中に完全回復するほどの力はない。 攻め、受ける。この二手のやりとりだけで、レジセイアとデュミナスの力量差ははっきりとしてしまった。 デュミナスが弱いわけではない。レジセイアが圧倒的すぎるのだ。 機と器――それに加え、気までも備えたレジセイアは彼の望んだ完全に、限りなく近い存在となっている。 それでもデュミナスは、止まらない。止まれない。 これは自分の意味を探す戦いなのだ。ここで膝を屈して負けを認めてしまえば、自分は本当に、ただの間違いで終わってしまう。 何のために生まれて、何のために生きてきたのか、その意味さえ失ってしまうのだ。 宙に現れたのは剣の群れ。デュミナスが顕現させた幾重もの剣の包囲がレジセイアを狙い打つ。 さしものレジセイアも、この剣の全てを叩きこまれてはただではすまない。 数秒のラグを置いて不規則に迫る剣の群れを、慎重に、かつ大胆に、かわすもの、いなすもの、受け止めるものを見極め、処理。 一波、二波と続く刃の嵐を相手にしながら――レジセイアは気付く。 デュミナスの纏う装甲が、不気味に蠕動している様に。 変化――変形は一瞬で完了した。 デュミナスそれ自体が一振りの巨大な剣になり、レジセイアを狙わんと最外で円陣を組んでいた自らの剣さえも撥ねのけ、幽鬼を刺し貫かんと突進する。 再び実体化した悪鬼がペルゼイン・リヒカイトの盾となるも、ごりごり、ごりと抉られ、削りとられていく。 足止め出来たのは数秒。骨を砕かれ膝を屈す幽鬼の傀儡を尻目に、デュミナスはペルゼイン・リヒカイトと肉薄する。 剣の切っ先がアインスト・コアに触れたのと白羽取りの形で刀身を握られたのは同時。 「ノイ・レジセイア。私は貴方に問う。 ……完全とは、何なのか? 不完全とは、間違いなのか? 間違いは、否定されなければいけないのか? 否定とは――消滅させることなのか?」 デュミナスは問う。答えを求める。 対し、レジセイアは答えない。ただ無言で、幽鬼を使役するだけだ。 「私をこの舞台に昇らせたのは貴方だ。 私の育ての親が、創造主ユーゼスであるというのなら、貴方は生みの親と言えるのかもしれない。 このバトルロワイアルという舞台上で、私はメディウス・ロクスとして、AI1として、ゼストとしてその役割を演じてきた。 だが……結果として、私は何にもなることができず、間違い(デュミナス)の烙印を押されることとなった。 私に力が足りず、創造主の望むものとなれなかった……これは、今更取り返しのつかないことだろう。 しかし私には分からない……私はいったい、何をすればいい? 何をすれば……自らに刻まれた間違いを消しさることが出来る?」 剣の姿を解き、そのままがっぷりと四つを組む。 四つの手全てに全力。決して離さず、の意志でレジセイアと密着する。 そして、問う。更に問う。問い続ける。 かつてとこれからの、自らの存在意義を。 「答えを――答えを――教えてくれ!」 「哀れ……実に哀れな存在だ」 冷笑を美貌の彩りとしながら、蒼髪の美少女は重い口を開く。 「我がヒトに完全を求めたのは……ヒトが、不完全を完全にする因子を……感情と意思を持つため。 自らの中に失敗を……自らの外に不可能を発見したとしても……ヒトは、それを打破するために考え、行動し、そして叶える。 故にヒトは……不完全であっても完全に限りなく近づくことさえある……その力を我のものとするためにこの箱庭は作られた。 AI1は可能性の欠片……ヒトという存在を計るためのただの機に過ぎない。 ただの機が……完全を目指す……? 答えを求める……?」 笑止、とレジセイアは吐き捨てた。 「自らの内に眠る可能性の欠片にすら気付かず……ただ他者に言われるがままの傀儡……不完全……不適当……不要……」 それ以上を語らず、ペルゼイン・リヒカイトは自らの傀儡――オニボサツをデュミナスの背後に展開、挟撃の形を取る。 いや、挟撃ではない。デュミナスの剣により崩壊したはずのもう一体も早々と蘇生している。 二点の挟撃ではなく、三点からなる包囲。 そして三体の手に握られるのは、ペルゼイン・リヒカイト唯一にして最良の武器であるオニレンゲだ。 二体の鬼面が刀を振りかぶり、同時にデュミナスの胴体部を突き刺し、その場に固定。更に包囲は強化される。 これでもう、デュミナスは完全に動けない――いや、動かない? ここに至ってもなお、デュミナスの瞳はもう一人の創造主である蒼髪の少女を中心に入れ、微かにもぶれてはいない。 それほどまでにデュミナスの意思は、願望は、強烈なのだ。 狂執、と言い換えてもいい。自らの存在を知り、正す――それこそが、デュミナスにとってのアイデンティティに他ならないのだから。 声にならない咆哮が、問いを重ね続ける。答えの返らない疑問が、魔星の中心で木霊し続ける。 「――――――――!」 「故に……我は……否定する」 ペルゼイン・リヒカイトがデュミナスの巨大な眼に、ずいと剣を差し込んだ。 何の障害も無かったかのように滑らかに入っていった刀身を前後左右に揺さぶる。 眼球上に浮かんだ一筋の線が、幽鬼の手の動きに合わせて生き物のように太くなり、広くなり、増えていく。 ざしゅ。ざしゅ。ざしゅ。ざしゅ。ざしゅ。ざしゅ。ざしゅ。ざしゅ。 表面の三分の一は、既に球面を保ってはいない。 人でいう血管、神経、体液にあたるモノを撒き散らしながら、胴に刺さる二本の刀のせいで倒れこむことも出来ない。 拷問とも言える、幽鬼の一方的な殺傷は続く。××が、××と、××に、言葉では言い表せないおぞましさと共に、淡々と行為は続く。 眼球をあらかた破壊し終え――ノイ・レジセイアはそのアイスブルーの瞳に、奇妙なものを見つける。 個での完全――超神を目指すことを選択したデュミナスには不要になったはずのもの。 幾重もの装甲に包まれ、デュミナスの奥底に眠っていたそれ。 無人のコクピットブロックが、幾百年ぶりに外気の元にさらけ出されていた。 ◆ あまりにもレベルの違い過ぎる攻防を前に、アイビスとカミーユはただ手をこまねいて状況の変化を待つしかなかった。 出来ることといえば、巻き添えを食らわないようにブレンのチャクラシールドの中で待つことだけ。 歯がゆい現実だった。ノイ・レジセイアを倒し全てに決着をつけると意気込んでも、元々の実力差は埋めようもなかったのだ。 無駄……無意味……無力……デュミナスに向けられた言葉が、そのまま自分たちにも当てはまる。 突然の乱入者が蒼髪の絶対者に楯ついたその時は、最後の最後で好機が訪れたと、そう思った。 だがデュミナスとレジセイアの闘争は、二人が介入する隙など全く無く。 そして、デュミナスでさえも――あれだけ自分たちを苦しめた、ゼストの進化形でさえも――レジセイアには及ばなかった。 全身に広がる疲労、倦怠感が気力を奪っていく。 絶望――その二文字が、頭の中を駆け回る。 「それでも……ここで諦めるわけにはいかないんだよ……!」 ここで自分が諦めてしまえば、膝を屈してしまえば、今まで散って行った命が、本当に無駄になってしまう。 まどろみの中で感じた多くの命と声があった。 絶望のままに死んでいった者たち――志半ばで倒れた者たち――意思を、希望を託していった者たち。 まだ自分には、立ち上がるための足がある。敵を見据える目がある。力を振るう拳がある。 剣を杖に、もう一度立ち上がる。たとえ、この剣が届かなかったとしても――最後まで、抗うことを諦めたりしない。 「……アイビス、やれるか?」 少年が声をかけた赤毛の少女は、しかし――泣いて、いた。声もなく、泣いていた。 「あ、アイビス……?」 「……あのさ、カミーユ。――何で私たち、戦ってるのかな? こんなに必死に、もがいてるのかな?」 「……っ! しっかりしろ、アイビス! 俺たちがやらなくちゃ、皆が――」 「違うんだ。そういうんじゃないんだ。……少しだけ、時間をもらっていいかな?」 アイビスの言葉に、カミーユは面食らう。 確かに状況は絶望的。しかし、だからといって、泣いて喚いてどうにかなるものではない。 こんな状況だからこそ、最後まで諦めずに戦い抜く意志こそが何よりも大切なものなのだ。 たとえ生き残っていたのが自分ひとりだったとしても、最後まで戦うつもりだった。 だが……ここでアイビスがその意思を失くしてしまえば…… カミーユの不安は募る。そんな少年の心中を知ってか知らずか、アイビスは語り出す。 「あたしは、落ちこぼれだった。一人では何も出来ない子だった。 ……まるで、自分を見ているみたいなんだ」 何を、とははっきり言わずとも、アイビスがデュミナス――ゼストと自身を重ね合わせているということは明白だ。 アイビスもまた、落ちこぼれとして扱われてきた。 だから―― 「きっと、あたしが考えてることは、正しくなんかないんだと思う。 でも――見たくないんだよ。自分のことを認めて欲しくて、なのにそうしてもらえなくて苦しんでる誰かは――見たくないんだ。 自分勝手なんだ。分かってるんだ。でも、でも……!」 大粒の涙がアイビスの目からぽろりぽろりと零れ落ちていく。 赤毛の少女は、臆面もなく――他人のために、涙を流していた。 もしかしたらそれは、自分自身のための涙だったのかもしれない。 デュミナスがまるで自分のようで――鏡に映る自分の姿を見て、泣いているようなものだったのかもしれない。 でも、それでも。アイビスはデュミナスのために泣いていたんだ。 「アイビス……」 「ジョシュアはこんなあたしのことを命がけで守ってくれた。 シャアはあたしにみんなの分まで生きろって――勝手に死ぬのは許さないって言ったんだ。 クルツは無い胸張って生きていけるように、精一杯頑張れって…… ラキはこんなあたしのことを優しいって、ブレンをよろしく頼むって。 あたしはどう生きるのが正しいのかなんて分からない。自分がやることみんな正しいだなんて思っちゃいない」 「そんなの――俺だってそうさ。ただ、許したくないことがある。だから戦うんだ。 少しでも、自分を――世界を、変えていくために」 ああ――と、アイビスはぐずりと鼻をかみながら頷く。 カミーユは強いねと。 「あたしには、そんな大きな目的なんかないんだ。 でも、胸を張って生きていたいから――精一杯頑張りたいから――もう、自分を誤魔化したくなんかない」 すぅ、と大きく息を吸い、 「あたしは、デュミナスを助けたい」 そう言った。 「ごめんね……最後の最後で、こんな我儘」 いつの間にか、アイビスの瞳からは涙が消えていた。 代わりに満たすのは――意思。強い意志だ。 カミーユが望むものとはベクトルは異なるものの、その強度はまぎれもないものだ。 「本気なんだってのは……痛いほど分かる。止める言葉なんかないってことも、よく分かる。 ……それで、本当にいいんだな、アイビス?」 こくん、と首を縦に振る。 既に心は決まっている。まだ、何をすればいいのかは分からないけれど、自分が何をしたいのかははっきりと分かっている。 「ごめん」 「自分でそう決めたんなら謝る必要なんかない。 ……後悔だけはしないでくれ。そうじゃないと、大尉たちが浮かばれない」 「……うん。それじゃ――」 「いってこい、アイビス。――飛べ!」 カミーユの声を聞き、アイビスはブレンと共に飛んだ。
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/156.html
◆ 「……嫌だ…嫌だ」 立ち並ぶ廃墟をなぎ倒し、抉れた大地が一筋の巨大な爪痕になっていた。 その爪の先で地に伏すヒメ・ブレン。その中でアイビスはうわ言を繰り返し呟いている。 うつむき、小さく丸まり、膝を抱え、体は芯から奮え、瞳孔は開き、焦点の合わぬ瞳は揺れ、歯の根も噛み合わず、心も折れた。 怯えが、慄きが、恐怖が全身を支配している。 「アイビス、無事か?」 ――通信? 僅かに顔を上げ、コックピットの内壁にぼんやりと開かれた通信ウインドウに目を向ける。 端整な顔立ちの青年がそこにはいた。 「ク……ルツ?」 「動けるな? やり返すぞ」 「無理だよ!」 息巻くクルツの声に咄嗟に反対の言葉が出る。本心だった。 自身の無力を思い知らされ心砕けた少女を目の前にして、驚きの表情をクルツが浮かべる。 「何……言ってんだ?」 「……無理だよ。ジョシュアの敵討ちなんて……私には無理だったんだ。 あんな奴に……勝てるわけがない。ねぇ、逃げよう。逃げようよ。ここから逃げちゃおう」 「お前、本気で言っているのか?」 「本気……だよ。だって仕方ないよ。勝てないんだ! 怖いんだ!! どうしようもないんだからっ!!!」 ギンガナムを思い浮かべると何をするのよりも恐怖が先に立つ。涙がこぼれ、体が震えてどうしようもなかった。 「そうか……悪かった。悪かったよ。すっかり忘れてた。誰も彼もが戦闘に慣れてるわけじゃねぇんだよな。 どいつもこいつも機動兵器の扱いに長けてやがるから、ついあいつらといる気になっちまってた。……俺は残るぜ」 「無茶だよ。あんたもうほとんど弾ないんでしょ……殺されちゃうよ」 「あぁ、その通りだ。だからアイビス、俺は無理強いはしないぜ。でもよ。ここで逃げちまってもいいのか? そりゃ俺だって死ぬのは怖いさ。逃げ出したくなることもある。だけどよ……命を懸けても絶対に譲れないことって……あると思うんだ。 これさえやり遂げれば一生胸張って生きていけられる。そういうときってあるだろう? だから俺は諦めない。だから俺は戦う」 思わず見上げた瞳に真っ直ぐな目をしたクルツの顔が飛び込んできた。その顔が一度にっと笑い、すぐに真面目な表情を作る。 「柄にもねぇことを言っちまったな。まぁいい。後は俺一人でやってみる。助けに入ってくれたラキは見捨てられねぇ。例え勝てなくても一泡吹かせてやるさ。 お前は逃げろ。逃げてそのアムロとか言う奴に悪かったって代わりに謝っといてくれ。じゃあな。お互い生きてたらまた会おう!!」 「あっ! ま……」 返事を返すよりも早く通信は途切れた。ノイズを伝えるのみになった通信機を前に呆けたように立ち尽くす。膝を抱え、丸く蹲り呟く。 「ずるい……」 心の中では逃げ出したい思いと踏みとどまりたい思いが葛藤を続けていた。 こんな自分でもまだ何かやれることがあると思う一方で、行ったってどうせ何も出来やしないといった思いがある。 「ラキが……ラキがいるんだよね」 胸を張って生きていけるのかは分からない。でも、今逃げ出したら一生悔いて生きていくのだろうという予感はあった。 少なくともここで逃げてしまえば二度とジョシュアに顔向けは出来ないだろう。シャアにもだ。 (でも……でも……ブレン、私はどうしたらいい?) お前は行かないのか、と耳元がざわめく。引け目を、負い目を感じながら生きていくのなんて真っ平ごめんだ、と何かが囁く。 それでも足は前に出ない。どうしようもなく怖いのだ。もう一度ギンガナムとの交戦を考えただけで膝が笑い、腰が砕け、足が退ける。 行きたい思いと逃げたい思いが交錯し、アイビスはその場から動くことは出来なかった。 ◆ 蒼と白の巨人が踊っている。 突き出した斬撃が防ぎ、捌かれ、かわされる。 迫る拳を受け止め、受け流し、やり過ごす。 目まぐるしく入れ替わる攻防は一つの流れとなり、流れは次の流れへと滑らかに変化していく。 そんな攻防の中、奇妙な心地よさが全身を包んでいた。 ブレンバーをなんでもなくかわしたシャイニングガンダムの双眸が閃く。 さあ、来い。 お前の番だ。 重心の動きが見える。 体重が左足に移り、右足が僅かに浮く。 その動作をフェイントに、突然撃ち出される頭部のバルカン。 それをすり抜ける様にかわす。 音が消え。 色が消え。 五感が遠くなる。 やがて体も消えた。 何もない空間に残された意識だけが。 飛び。 交わり。 火花を散らす。 エッジを立てる。 刃先が一瞬輝く。 踏み込み、剣を振るう。 手ごたえはない。 そのことに心が湧き踊る。 馳せ違い、反転。 正対し、トリガーを引く。 極小距離からの射撃。 かわせ。 生きていろ。 もう一度、刃を交えよう。 飛び退く。 距離を取る。 体中の体重を足に乗せ。 もう一度、踏み込む。 相手も重心を足に。 そして、バネの様に前へ。 いいぞ、速い。 さあ、もう一度。 交錯する意識と意識。 剣と拳が擦れ違う。 掠ったか。 凄い。 いい動きだ。 楽しい。 しかし、何だ? 少し遅れた。 何故だ? 遅い。 重い。 どうした? どういうことだ? この不自由さは。 このズレは。 それに、声が。 ――ラキ。 男の声が。 ――ラキ。 聞きなれた声が間近に。 ――ラキ、そっちじゃない。 誰……ジョシュア? 不意に長く暗いトンネルを抜けたかのような色鮮やかな景色が周囲を埋め尽くした。 それに気を取られる間もなく、眼前に迫った豪腕の対応に追われて、咄嗟に身をよじる。 装甲の表面で火花が散ったかと思ったときにはもう蹴飛ばされて、1km先の地面を転がっていた。 何という素早さだ。 こんな相手と今まで五分に渡り合っていたというのが信じられなかった。 口の中を切ったのか血の味に気づき、五感が体に戻ってきたということを自覚する。 戻ってこられたのはあの空間に介在していた二つの意思のおかげ。 胸をギュッと掴む。消えたと思っていたジョシュアの心ともう一つ。 ただの機械ではなく生きている機械、感じたズレの正体――ネリー・ブレンの意思。 (ブレン、ありがとう) (……) 視線の先では、急に不調を起こしたこちらをいぶかしみ、待っている相手の姿があった。 その姿は語っている。『もっと戦おう』『もっと殺しあおう』と。 「ん?」 (……) 「大丈夫。もうそっちには引き込まれない」 ――そう。ジョシュアの心の頑張りを決して無駄にはしない。 ◆ 未だ暗い大地に重い足跡を残し、脚部に損傷を抱えたままのラーズアングリフは移動を続けていた。スナイパーであるクルツの頭に、ラキとギンガナムの接近戦に割り込むという選択肢はない。 移動の足を止めずに周囲に目まぐるしく視線を走らせ彼が探すのは、周囲でもっとも見晴らしがいいと思われるポイント。 コンクリートに覆われ、ビルに埋め立てられた市街地と言えど、元の地形を考えれば若干の高低差は存在する。その僅かに小高い丘一つ一つに厳しいチェックの目を向ける。 しかし、廃墟と化しているとはいえ、立ち並ぶビルは高く数も多い。高いところに高いものを建てるというのは、都市景観の一つの考え方なのだ。 絶好の狙撃ポイントといえる場所など見つかりはしない。それでも幾分マシな丘を見つけ、目を付けた。 周囲に気を配り、極めて慎重に、静かに、そして素早くビルの谷間を突き抜ける。坂を登りきったクルツの視界が開け、ラキとギンガナムが切り結ぶ戦場が映し出された。 「ここなら、いけるか……?」 戦場の全てを見渡せるという状態には程遠い。だがそれでもやるしかない。 地に伏せ、短銃に輪切りのレンコンを思わせる回転砲頭をつけたようななりのリニアミサイルランチャーを構える。 掌中の弾は僅かに二発。だがそれでいいとクルツは一人ごちた。 狙撃の前提条件は相手方に悟られないこと。その観点から見るとこの機体は少々派手過ぎる。一度発砲すればまず間違いなく見つかるだろう。 つまり二度目はなく、多くの弾はこの場合必要ない。問題はそれよりも狙撃にはおよそ向かないと思われる火器のほうにある。 近中距離用の小型ミサイル。噴射剤の航続距離には不安が残り、レーダー類が軒並み不調な以上、誘導装置もどこまで信頼できるかわからない。精度に問題が出てくる可能性が高いのだ。 「どうしたもんかねぇ、こりゃぁ……。でも、まぁ、大見得切っちまった以上やるしかねぇか」 頼れるのは最大望遠にした光学センサーと両の目のみ。 なんだかんだ言ってもやることに変わりはない。出来るだけ正確に目標を狙い撃つ。ただそれのみ。 機体を地面に伏せさせると、目を細め、小指の先ほどにしか見えない飛び交う二機の挙動を穴が開くほど見つめた。瞬きはしない。ただじっと動きを止めて来るべきときを待つ。 睨んだ視線の向うで七色に輝くチャクラ光と蒼白いブースターが、蛍のように大きく、小さく尾を引きながら明滅する。 突然、不調が起こったのかネリー・ブレンの動きが鈍る姿が見えた。そして見る間に押し切られ蹴り飛ばされる。 距離にして約1km。両者の間が開く。それを視認した瞬間には既にトリガーを引いていた。 煙の帯を引いたミサイルが銃身から飛び出していく。そして、カサカサに乾いた唇に舌を這わせ、もう一発。 弾装はこれでもぬけの空。だが、とりあえずの人事は尽くした。後は運を天に任せるのみ。 常識に従い速やかに射撃地点から離脱を始めたクルツの耳に、爆発の轟音が届いた。だが、噴射炎越しに直前で身を翻すのが見えた。案の定、爆煙の右上を裂いて敵機が現れる。 その様にクルツはにやりと笑った。 「予想通りだ! 往生しやがれ!!」 グッと親指を立てて突き出した右手を下へ返す。二発目はギンガナムに向かって猛進している。 気づいた敵機が姿勢制御用のスラスターを噴かし、慌てて左へ大きく流れた機体の勢いを殺す。 無駄だ、とクルツは一人毒気づく。場は空中、足場のないそこでは勢いは殺しきれない。ジャマーか、あるいはSF染みたバリア装置でも持っていない限り直撃は避けられない。 それがクルツの下した結論だったが、直ぐにそれは破られ驚くこととなった。 ギンガナムがブンッと音を立ててピンクの光刃を腰から引き抜く。そして、一切の躊躇もなしにミサイルに投げつけたのだ。 結果、直撃前にミサイルが爆発し、呆気に取られて動きを止めたクルツはギンガナムと視線がかち合うこととなる。 「やべっ!!」 息をつく間もなくギンガナムが反撃に転じた。左腕から無数の光軸が殺到する。一制射につき二筋の光軸。 「くそっ! 良い腕してやがる!!」 三制射かわしたところで体勢を崩し、四制射目がラーズアングリフの右膝間接を砕く。そして五制射目、コックピットへの直撃を覚悟した。 その直撃の刹那、異音と共に何かが視界に割り込む。眼前で七色に輝く障壁とピンクの光軸が火花を散らし、残響を残して消えていった。 両の手を大きく広げて身を挺して庇うように立ちふさがる機体を見上げ、クルツは抑えきれない笑いを噛み殺す。 「ようやくおいでなさって下さったわけだ」 見知った顔が一つ、モニターに映し出されている。赤毛に黒のメッシュの少女、アイビス=ダグラスだ。 「待たせてごめん。ここからは私も戦う」 「悪いな。こっちは弾切れ。ここらでギブアップだ。で、大丈夫か?」 おちゃらけた態度で両手を挙げてお手上げをアピール。そこから一転して真面目な顔つきに変わったクルツが言う。 それにアイビスはモニターに向かって右手を掲げて見せつつ、答えを返してきた。 「大丈夫じゃないよ。怖いし……ほら、手だってまだ震えてる。でも、ブレンがあの蒼いブレンを助けたがってるんだ。それに――」 「それに?」 「あたしもここで逃げたらジョシュアに顔向けが出来ない。 あんたが言うように胸を張って生きていくことが出来なくなる」 目を見、おっかなびっくりではあれど吹っ切れたようだな、と推察したクルツはクッと笑い、言葉を返す。 少なくとも、ただのやけっぱちでぶつかって行こうという心構えではないらしい。 「ない胸して、言うねぇ! 上等だ!!」 「一言余計だ!!」 「ハハ……怒るなよ。褒めてるんだぜ、これでも。 アイビス、モニターをこっちに回せ。俺がサポートをしてやる。思いっきり暴れてこい!」 「モニターを?」 「ああ! 敵機の行動予測と弾道計算、その他もろもろ全部任せろ」 「ナビゲーションの経験は?」 「ないっ!」 「えぇ~、無茶だって!!」 砕けた口調で返してきた言葉に、固さは取れたな、とにっと笑う。 軽口というのは、固くなって縮こまっている新米兵士に普段の自分を取り戻させてやるのに有効なのだ。それで随分と生存率が変わってくる。 「そいつは実際にやってみてから言う言葉だな。やってみもしねぇうちからする言葉じゃねぇ。少なくともないよりマシだろ? それに怪しければ無視してくれて構わねぇ」 「そりゃ……まぁ……」 「なら決まりだ! 俺とお前、二人で……いや、ラキも合わせて三人で奴に一泡吹かせてやろうぜっ!!」 「わかった。やるよ、ブレン!!」 威勢良く啖呵を切ったクルツに、一度目を丸くしたアイビスが目つきを変え、顔つきを変え、答える。 その姿を見たクルツは、いじけにいじけて一周したら良い顔になったじゃないか、と一人ごちた。 ◆ 突然の爆発にラキの挙動は遅れ、一時的にギンガナムを見失っていた。 爆発の余波か、電磁波が入り乱れてレーダーの効きがとんでもなく悪い。視界も立ち込めた薄煙でフィルターをかけられていた。 そして、二度目の爆発が起こる。 耳を劈く轟音と眩い閃光。遅れてやってきた空気の壁が薄煙を吹き飛ばす。 咄嗟に目を向けたその先に、左腕から投げナイフを投げるように光軸を飛ばすギンガナムの姿があった。視線誘導に引っかかったように、光軸が殺到する先に自然と目が向く。 「あれは……ブレンパワード? ……っ!!」 クルツのラーズアングリフと白桃色のブレンパワードをラキが視界に納めるのと、ギンガナムが大地を踏み鳴らし進撃を開始したのは、ほぼ同時だった。 咄嗟に視線を戻す。またしても出遅れた。 猛然と突撃を試みるギンガナムに対し、初動の遅れたラキは間に割ってはいることが出来ない。間に合わない。 が、それはあくまでラキに関してだけのことである。 ラキよりも素早く反応を起こしたネリー・ブレンが跳ぶ。バイタルグローブの流れは一切合財の距離をふいにして、ネリー・ブレンをギンガナムの真正面へと誘う。 ジャッという鋭い反響音。 咄嗟に掲げられたアームプロテクターと唐竹割りに振り下ろされた刀剣の間で、火花が奔る。 「ブレン、弾け! 押し合うな!!」 『緊』と乾いた音を残して、ブレンが飛び退いた。 格闘戦の為に造られたシャイニングガンダムとブレンパワードでは、人で言うところの腕力・筋力がまるで違っている。 だからこそ押し合わずに弾く。単純な力比べでは敵うはずもない。 ならどうすればいい? こんなときにジョシュアならどう戦う? 思案を巡らせる。巡らせるうちに再び身の内で疼き始めたモノを感じ取り、思わず手に力を込めた。両の手はネリー・ブレンの内壁にバンザイに近い形で添えている。 そこはほんのりと暖かい。その感触を肌から感じ取り、ラキはホッと息をつく。 大丈夫。感覚は戻っている。 目も見える。耳も聞こえる。鼻も利くし、ブレンを感じることも出来る。大丈夫。まだ大丈夫だ。 そう何度も自分に思い聞かせた。そしてそこに意識を割かれ過ぎた。 風切り音を残して銃弾が飛来する。それはシャイニングガンダムの頭部に誂られたバルカンの弾。 意識を自分の内側に向けていたのに加えて、光を発するビームとは違い闇に紛れる実弾。視認のしにくさの分だけ反応が遅れた。 回避は間に合わない。だが、この程度の弾ならチャクラシールドで弾ける。 そう思い、チャクラシールドを張る瞬間、スッと右方向に回り込むうっすらと白くぼやけた帯が目を掠めた。 しまったっ! チャクラシールドが展開する。七色に揺れ、輝くチャクラの波に視界が遮られる。透明度の高いチャクラ光ではあるが、その輝度は高い。そして、今は夜。目標を見失う。 バルカンを弾き終わり視界が開けたとき、それは頭上に回りこんでいた。 右方向に注意を払っていたラキは完全に意表を衝かれた形となる。上方から勢い良く突っ込んできたギンガナムに対して、ブレンバーで受けるのが精一杯の反応だった。 だが、真正面から受け止めすぎた。上方からの押しつぶすような巨大な圧力。受け流せない。弾き、飛び退くにしても大地が邪魔になる。 「ブレン、耐えてくれ」 耐える。それが唯一残された選択肢。 足場の舗装道路が砕け、アスファルトの破片が舞い上がる。嫌な音を立ててブレンバーの刀身に皹が走る。 そして、次の瞬間――圧力は消え去った。一条の閃光が眼前を掠め飛び、その対応に追われたギンガナムの機体の姿が遠くなる。 クルツか。そう思った耳に飛び込んできたのは、まったく聞き覚えのない声だった。 「ラキ、これからあんたを援護する」 「お前……は?」 思わずキョトンと呆けたような呆気に取られたような顔になって、ラキは呟いた。突然、モニターの隅に赤毛の少女の顔が映し出されたのだ。 「アイビス=ダグラス。ラキ……あんたを探してた」 「アイ……ビス?」 「うん。あんたに伝えなきゃならないことがある。ジョシュアは……」 「知っている。ジョシュアはお前を守って死んでいった……」 アイビスの言を遮って、ジョシュアの死を口にする。その言葉にモニター越しの顔は俯いて押し黙った。 アイビス=ダグラス、そう名乗る少女の顔を見、ラキは話しかける。 「アイビス、私もお前を探していた。今会えてよかった。そう思える」 「えっ!?」 その声にパッと伏せていたアイビスの顔が上がった。戸惑い表情がそこには浮かんでいる。 微笑みを返す。意図した笑みではなかった。自然と口元が綻んだのだ。 『今』会えてよかった。本当にそう思える。 今ならまだいつもの私のままでいられる。でも二時間後三時間後は分からない。 次の放送を迎えたとき、いつもの自分でいられるという保証はどこにもなかった。 瞼を閉じ、ブレンの内壁に触れる両の手に神経を集中させる。 ほんのりと暖かい。気持ちを落ち着かせ、心を穏やかにさせる暖かさだ。 大丈夫。今の私はいつもの私だ。 「ラキ」 呼ばれて、もう一度アイビスに視線を戻した。そこには戸惑いの色はもうない。 あるのは一つの決意だけ、それが言葉となって飛んで来る。 「ジョシュアの弔い合戦だ。あいつを、ギンガナムを倒すよ!」 あいつにジョシュアは殺されたのか、と思った次の瞬間、ジョシュアはそれを望むのだろうか、とふと疑問が頭をもたげた。 あの時、ジョシュアはギンガナムの名を出すことはしなかったのだ。 「二人で楽しくやってるところ悪いがな。そろそろ奴さん仕掛けてきそうだぜ」 どちらにしても戦わないわけにはいかないだろう。二体のブレンはともかく、クルツのラーズアングリフは損傷が大きそうだ。逃げ切れるとはとても思えない。 思いなおし、ラキはギンガナムを睨みつける。 それにジョシュアがどう思おうと、仇は仇なのだ。ジョシュアを殺した者が生きている。それはやはり納得がいかない。許せないのだ。逃げるという選択肢は今はない。 「ああ、ジョシュアの仇討ちだ!!」 →Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―(3)
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/328.html
交錯線 ◆7vhi1CrLM6 一瞬、刃先が常闇の中に浮かび上がった。 咄嗟に腕が動き、鞘を盾に受け止める。高く澄んだ金属音が狭い通路に反響した。 続けて一閃二閃。 鞘を払う暇も余裕もなく、視神経を総動員して刃の動きを追う。 補給を行なった影響か。あるいは損傷の修復が進んだ影響か。動きが前よりも早く巧緻に長けている。 必死になって動きを追った。 四エリアに跨る広大な南部市街地。その下に網の目のように張り巡らされた地下道には、日の光も届かない。 刀身が鞘に触れたその瞬間だけ、カッと火花が飛び、互いの姿を浮かび上がらせていた。 圧し掛かり押し潰してくるかのような圧力。刃を防ぎつつ圧されてジリジリと後退していく。 場所が悪い。幾ら幅員60m高さ70mを超える広さとはいえ、所詮は通路。 40mを超えるヴァイサーガに換算してみれば、それは僅か人二人分のスペースでしかない。刀の取り回し一つにも苦労する。 対し自機の三分の一程度の大きさしかないマスターガンダムは、このスペースを遥かに有効に活用できる。 地の利がどちらにあるのかなど、明白。 気を抜けば見失いそうな刃を受け止める。それはクナイの型をした烈火刃の白刃。 人間換算すればヴァイサーガにとって15cm程度刃渡りしか持たないそれも、マスターガンダムにしてみれば刃渡り45cmの立派な脇差となる。 元々が投擲用で斬撃に向かない形状とはいえ、補給後に一本よこせと言ってきたこいつに渡すんじゃなかった、と後悔が頭を掠めた。 一つ。二つ。三つ。連続して火花が瞬き、両者が間合いを取る。 見失わなければ受けられる。ヴァイサーガはそういう機体だった。 ダイレクト・フィードバック・システムが思考を拾い、周囲の地形を考慮した上で最適なモーションを選び出す。 だから、見失わなければ受けられる。 そして見失わないだけの間合いの取り方は、ここまでの同行中『暇だから』と称してさんざっぱら襲い掛かられたお陰で身につき始めていた。 刃が閃く。外から内に侵入してくる横薙ぎの一閃。 鞘を縦に通路に突き立て、受け止める。そのまま膠着し、力勝負の押し合いの状態に縺れ込んだ。 「いいねぇ。やるようになったじゃねぇか。最初とは大違いだ」 「五月蝿い! 黙れッ!!」 二者の満身の力を引き受けることになった鞘と烈火刃がカタカタと小刻みに震え、音を立てていた。 ヴァイサーガの腕力なら押し切れる。そう思った瞬間に、圧が消えた。 マスターガンダムの手の甲で一回転した烈火刃が鞘の内側へするりと滑り込む。 「ならこれはどうする? クク……防いで見せろよ、統夜」 そして、圧の方向が変わった。外から内に向かっていた圧が、気づけば内から外へと向かっている。 鞘が外に弾かれ、ガードが抉じ開けられる。同時に懐に滑り込んでくる黒い影。 しまった、と自らの失態に気づいたときにはもう遅い。とんっと軽く腹部装甲に足裏が触れたと思った瞬間、押されて仰向けに倒された。 蹴られたわけではない。損傷を与えぬように優しく足の裏で押されたのだ。 咄嗟に起き上がろうとして、直に耳に響く濁音を聞く。 コックピットカバー越しに響いたその音は、ハッチを隔てた向こう側に足場を確保された音だ。 モニター見れば、ガウルンが烈火刃をコックピットに突きつけているのも分かる。 荒い呼吸を整えて一つ大きな息を吐き、コックピットを開け放った。 「……参った。降参だ」 汗だくの体で倒れたヴァイサーガの上に立ち、そう言うしかなかった。 どう考えてもヴァイサーガが体勢を立て直すのより相手の一撃がコックピットを貫く方が、早い。 ガウルンが機体から降り、歩み寄ってくる。 「やれやれ、軽はずみに褒めるもんじゃねぇな。もう少し相手の動きをよく見て先を読め。素直に受け止めすぎだ」 「……あんたが言えることかよ。暇って理由だけで隙も覗わずに襲い掛かってくるあんたに」 「俺か? おいおい、よく俺のことを見もしないで心外なことを。お前が気づいてないだけで俺はよぉく見てるぜ、統夜。 クク……頭のてっぺんから爪先まで全身余すことなく、それこそお前の尻の穴の中までなぁ」 舌なめずりするその姿に生理的な嫌悪と身の危険を察知し、怖気が走る。 危険。危険。危険。 さんざ分かっていたことだが、この男は危険。 そして同時に、そうやって圧されることのやばさも肌は敏感に感じ取っている。 気を呑まれるな。臆するな。弱気を見せれば瞬く間に喰われるぞ。 何故押し黙る? 口を開け。震えるな。睨み返せ。お前は何に腹を立てていた? この男の理不尽さにではないのか? だったら、それを怒りに変えろ。意地でもいい。それを糧に反発し、反抗してみせろ。 ごくりと生唾を飲み下し、自分に言い聞かせる。ガウルンの顔を見据え、睨みつけた。 「おやおや、ご機嫌斜めなご様子で。だがそうやって俺のオモチャになっている内は、何をしても説得力に欠けるねぇ。 分かるか? 手を組むときにああは言ったがなぁ。今のお前は殺す価値もない腑抜けたただの餓鬼だ。 あのフェステニアとか言う嬢ちゃんの方がよっぽど、クク……殺しがいがある。お前、今あの嬢ちゃんと殺り合ったら殺されるぞ」 「そんなことッ!!」 抗議したその瞬間、襟首を掴まれて装甲板に引き摺り倒される。 ヴァイサーガの硬い装甲板に顔面から突っ込んで、蛙が潰れたような声が口から漏れた。 咄嗟に顔を持ち上げようとして、厚く硬い靴底の感触を後頭部に感じる。踏み潰され、再度顔面が装甲板にぶつかる。 「分からないって? 分かるさ。勘だがな。当るんだよ、こういう勘はな。だがなぁ、俺の獲物を横取りしようってんだ。 それじゃあ困る。最低でも観客を沸かせるぐらいはしてもらわねぇとな」 頭の中で『殺される』という直感と『大丈夫だ。残り一桁までは殺されない』という理性が、喧嘩していた。 鼻頭が痛い。どろりした赤い液体が装甲板をぬらしている。 「いいか。お前はあの嬢ちゃんにいいように使われて、カモられてたんだよ」 俺が? テニアに? そうだ。そうだった。 ホンの一時間ほど前に芽生えた感情を思い出す。 「お優しい仲間だの信頼だのをちらつかせて、お前の力を骨の髄までしゃぶり尽くそうとしてたのさ」 そうだ。俺は偽者の主人公だった。彼女達が都合のいいように誂た、偽者の。 「言ってみろ。誰のせいでお前はこんな目にあっている?」 何故? どうして? 俺はこんな理不尽な扱いを受けている? 決まってる。あいつらだ。あいつらと―― 「答えろよ、ほら。お前が今こうして苦しんでんのは、あの化け物に目をつけられる羽目になったのは、誰のせいだって聞いてんだ」 ――こいつのせいだ。 明確な殺意を持ってそれを思った。踏みつけられたままの頭を渾身の力で持ち上げる。 「そうやって俺を見下して満足か? 満足なんだろうな、あんたは。でもそれは俺にとっちゃ屈辱なんだ。 殺してやる……殺してやる! テニアも、お前も、俺が必ず殺してやるッ!!」 そうして四つん這いの姿勢のまま目を剥き、下から睨み上げて言った。ガウルンの口元が獰猛に笑う。 その瞬間、再び力の込められた足に踏み潰されて、三度装甲板に頭が打ちつけられる。 きな臭い臭いが鼻から脳天に突きぬける。じっとりと粘っこい視線を背中に感じていた。 そのとき、上空を何かが通過していく音を聞く。飛行場付近でよく耳にするジェット機が低空を飛行していくような、そんな音だ。 地下と空中。大地という遮蔽物の影響が、常よりも利きの悪いレーダーの性能を更に低下させているのだろう。 ヴァイサーガ、マスターガンダム共に接近を知らせる警告音はない。 踏みつけていた足がどいたので、そろりと立ち上がりながら視線だけでガウルンの表情を盗み見た。 ◆ 陽が昇って改めて目にするそこの光景は、悲惨な有様だった。 初めてロジャーが訪れたときこの場所は、人がいないという一点を除けばまだ普通の街だった。 パラダイムシティのドーム内にも劣らないほど大きく発展した市街地だった。 それが今はどうだ? 見る影もない。 高層ビルは倒れたドミノのように転がり、中には地割れに呑み込まれているものもある。 建物の多くは倒壊して崩れ去り、普段はコンクリートに包まれて見ることのない骨組みが無残にもその姿を晒していた。 通りはまだ火事の煙が抜けきらずに靄がかかったようになっており、焼け爛れた家屋がその左右に連なっている。 同じ廃墟でも長い年月をかけて風化したといった風情の中央廃墟とは大きく異なる。 ここには大地震を被災した直後の様な、まだ壊れて間もない生々しい傷跡が広がっていた。 中でも一際被害が激しいのが、息絶え無残にも死骸を晒している二首の竜の周辺だ。 そこは遠目でも分かるほど地形が窪んでいた。無敵戦艦ダイを中心にして大きな円状に広がる窪地。 高低差は100m弱と言ったところだろうか。まるで蟻地獄のように全てを地の底へ引きずり込んでいる。 最早何のものかも分からない破片が渇いた砂のように窪地を埋め尽くし、僅かに残った高層ビルがそこに突き刺さっている。 所々に見える穴は地下通路の穴だろう。それも大半は瓦礫の砂にふさがれていた。 「これ……私達がやったんだよね……」 その廃墟の街並みの上空に凰牙を走らせながら、周囲の惨状に目を向けていたロジャーは、その呟きにチラリと通信モニターを見やる。 何かを考えているのか、普段活発で勝気なこの少女には見られないどこか沈んだ顔がそこにはあった。 「気にすることはない。君の責任ではないさ」 「でもね、ロジャー。この街は元はちゃんとした綺麗な姿をしていて、私達が来て壊しちゃったのよ。 私達が来たときには、もう人はいなかったけど。いろんな人が一生懸命になって建てて、笑ったり泣いたりしながら過ごしてたはずの場所。 長い時間をかけてちょっとずつ手を入れてもらって、大事に大事にしてもらって、そうやって何代もの間、家族を守ってくはずだった場所。 家ってそういう場所でしょ。それを私達は突然やってきて勝手に壊しちゃったのよ」 「だがここには最初から人はいなかった。人が暮らしていた痕跡が……」 「そうだとしても。本当は人がやってきて使ってもらえるのを待っていたんじゃないかしら」 不機嫌に割り込んできたソシエの様子に、眉を顰める。 「君は何が言いたい?」 「……別に」 その言葉を境に通信モニターのソシエがそっぽを向いた。 ソシエらしからぬこの様子は、市街地の惨状を突然戦火に見舞われた故郷に重ねたがゆえの感傷だった。 今のソシエの目には、眼下に広がる風景があの成人の日に焼かれた故郷のビシニティに、お父様を亡くしてしまったハイムのお屋敷に重なって見えてしまう。 だが、そんなことが説明もなしに分かるはずもない。まして相手はロジャーである。 ビッグ・オーを呼ぶたびにビルやら、道路やら、街のインフラを破壊して登場させるこの男に理解を求めるというのが、土台無理な話なのである。 説明したとて理解を示すかどうかすら怪しい。 よって『何かよくわからないが、機嫌を損ねたことは確からしい』という程度が、ロジャーの見解だった。 やれやれとモニター越しに臍を曲げた少女の姿を一瞥して、そういえばと思い出す。 そういえばあれは、最初にここに向かっていたときのことだっただろうか。リリーナ嬢にも臍を曲げられた。 あのときも確かそっぽを向いてだんまりを決め込んだ彼女が、一切返事を寄越してくれなくなったのだ。 妙な可笑しさを感じて、悪いと思いつつも口元が緩むのを感じた。そこへ声が飛ぶ。 「ロジャー! 何にやけてるのよ。だらしがないわね」 その台詞を聞いて、いや違うな、と思った。もういつもの調子に戻っている。 こういう切り替えの早さと歯に衣着せぬ言葉使いにお転婆な態度は、リリーナ嬢にはなかった。 それぞれにそれぞれの良さがある。二人を混同して捉えるなど、両者に対して失礼というべきだろう。 「そうかな? すまない。以後気をつけるとしよう。それでどうした?」 「見つけたわよ」 「さて、ソシエお嬢様は何を見つけたのかな?」 少しからかってみたくなり、笑いながらまぜっかえす。 「飛行機よ。飛行機。あれでしょ? あなたのお知り合いが乗っていたって飛行機は」 そう言って示されたものに目を向けて真顔になる。 無敵戦艦ダイよりもやや西に、瓦礫にその頭を埋めるようにして遺棄されている戦闘機があった。 機首が折れ、右翼が引き裂かれ、尾翼も失われており機体表面を覆う装甲板も少なくない数が剥がれ落ちて、その内部を晒している。 二度と飛び立つことは適わない堕ちた戦闘機。以前目にしたときよりもさらに損傷の進んだ無残な姿。 だが、濃紺の機体色に黄色のアクセントを取り入れたそれは間違いなく目的の機体だった。 「YF-21に間違いない。ガイの機体だよ」 「無事だといいわね……わっ!!」 直接的ではないにせよYF-21を落した責任の一端を感じて神妙になりかけたソシエを見て、急に舵を切った。 未だどこにいるのか分からないが、通信モニターの映像からゴロンゴロンと転がる羽目になったのは分かる。 「ちょっと、何やってるのよ! 真面目に運転なさい!!」 頭をさすりながら飛んできた予想通りの怒鳴り声に、軽く笑う。 「そう、その調子だ。あれこれ考えて沈んでいるのよりもそうやって怒鳴っているほうが君らしい、と私は思う」 「どういう意味よ!」 「いいぞ。その調子だ」 「あ~、馬鹿にして」 「では元気が出たところで一仕事頼むとしようか。私がYF-21を調べる間、コックピットに座っていて貰おうか」 凰牙を着地体勢に移しながら言った言葉に「座ってるって、それだけ?」と言葉が返る。 「いや、周囲の索敵をお願いしよう。ここは視界が悪いのでね。何が潜んでいるのか分かったものではない」 「分かった。敵を見つけたら教えたらいいのね。他には?」 「とりあえずは以上だ。そうそう、なるべくなら凰牙は動かさないで貰いたいな。 下手に触られて壊されたのでは目も当てられない」 「失礼ね。私はこれでもミリシャで――」 そんなやり取りを続けながら凰牙をYF-21の近場へ。 半分埋没しながらも窪地に刺さり、高く伸びている高層ビルの瓦礫に足を降ろした。 総重量400tを超える重みを受けて瓦礫が軋みを上げ一瞬冷やりとしたが、それだけだった。 胸部に収まるコックピットのハッチを開け放ち、ソシエと入れ替わる。そのまま一人で地上へ。 「ロジャー!」 大声で呼ばれて振り返る。何かを投げる姿が見えて、何か黒い物が飛んでくる。 慌てて受け止めて確認してみれば、それはロジャーが外部から持ち込んだ時計型の通信機だった。 待ちかねていたかのように通信が繋がる。 「もう少し丁寧に扱ってもらいたいものだ。だが返していただけたのだ。この際文句はしまっておこう」 「私の物をどう扱おうと私の勝手じゃない。それに貸すだけよ。通信に必要だから一時的に返しただけなんですからね」 どうやらもう既にソシエの中ではすっかり彼女の物となっているらしい時計を腕につける。 いつ、どうやって、差し押さえられた物品を奪い返そうかと溜息を漏らしながらロジャーは、YF-21に向かって瓦礫の中を歩き始めた。 約15分後、YF-21のキャノピーから飛び降りるロジャーの姿があった。 一通り調べ終わって収穫はゼロ。ガイの行方に繋がる手がかりは何もない。 ただ遺体が無いという事は少なくともあの時ここでは死ななかったのだろう。 生きている。とりあえずはそれ満足したつもりになって、凰牙に戻ろうとしたその時通信が入った。 「ロジャー、そっちに向かって人が歩いてる」 「歩いて? 機体には乗っていないのか?」 僅かに眉を顰めて言う。その物言いに過敏に反応したソシエの声が返る。 「そうよ。どこにも機械人形の姿は見えませんもの」 おおよその位置を聞いた上で、これから交渉に入ること、待機していることを手短に伝えると通信を切った。 機体にも乗らず生身を晒して歩いている。そのことの意味を探る。 しかし、その答えが出るのよりも早く―― 「よぉ、ネゴシエイター。クク……誰かと思ったらあんたかい」 その男はやって来た、慣れた足取りで瓦礫の海を乗り越えて。 オルバとテニアに会ったときとは違う。目が合ったときからこの男が放っている只ならぬ威圧感を感じた。 「前にどこかでお会いしたかな?」 「おいおい。あれだけ最初の場で目立っておきながらよく言うぜ。あんたを知らない奴のほうがここでは珍しい」 不安定な足場にも関わらず全く危なげのない所作で男は近づいてくる。 余りにも動きが慣れすぎている。そして、この廃墟の光景が余りにも似合いすぎていた。 それは味方にすれば頼もしいが、敵にすれば怖ろしい。念を入れるつもりで心中に身構える。 「なるほど。ここでは私は有名人というわけだ。それでどうやら私に会いにきたようだが、ご用件をお伺いしよう」 「何、大した用事じゃないんだがね」 男の視線が背後のYF-21へと注がれ、顎でしゃくる様にして指した。 「そいつに乗ってたパイロット――アキトの行方をあんたなら知ってるかと思ってね。それとまぁ情報交換と言ったところかな」 「アキト? ガイではないのか?」 「ガイ? そいつは知らねぇな。まっ、そいつでもいいか。そのガイって奴の居所を教えてくれ」 「ガイを探してどうするつもりだ?」 「別に。あんたにゃあ関係のない話さ」 あんたが気にかけることじゃない、という風に肩を竦めて見せた相手。 ガイの行方はこちらも気になることだったが、話にならない、と同じように肩を竦めて返す。 「ならば私も教える義理はないな」 「そりゃそうだ、と。まぁ、いい。で、ネゴシエイター、あんたは何だってこんなところに来たんだ?」 「それも答える義理はないな」 「おいおい、あんたが俺にしたのと同じ質問だぜ。俺が答えたんだ。あんたも答える義理があると思うがな」 懐からサングラス取り出しつつ「そうだったかな」と恍けた様子で返す。 さて、問題はこの男にJアークとナデシコの交渉について話すべきか否か、だ。 オルバとテニアには話した。だがそれは、二人がナデシコに関連する人物であるところが大きい。 その他に当るこの男に話すべきなのだろうか。 サングラス越しに男の様子を覗う。 どこか恍けた様子で薄い笑いを絶やさないこの男。身のこなしと漂わせている雰囲気から只者でないのは分かるが、どうにも評価を付け難い。 今、目にしている姿が虚なのか、実なのか、判別が付かない。かなりの曲者ということだろう。 交渉というのは、どの程度相手に信頼がおけるどうか、というのが大きく関わってくる。 その点においてえたいが知れないというのは、それだけで途方もないアドバンテージとなり得るのだ。 オルバよりもさらに場慣れしていると言える。 ではどうするか? このまま何食わぬ顔で情報を交換し交渉を終えるのか。あるいはこの男もあの場へと招くのか。 答えは決まっている。 受けた依頼の内容は『Jアークとナデシコの交渉の場を整えること』そして、『なるべく多くの者をその場へ集めること』だ。 ロジャー=スミス個人の判断が及ぶところではない。ゆえにこの男を例外にするわけにはいかなかった。 「実は今、場を整える依頼を引き受けている。ある場所へなるべく多くの者を集めるのが私の仕事だ」 「なるほど。それで人を探してここへ来たってわけか。残念だが、ここには俺しかいないぜ」 「なに、君も例外ではない。例え今あの化け物の言いなりになって人を殺めている者だろうと考える時間は必要だ。 どのような諍いや因縁であれ、話し合いで解決できるのならばそれに越したことはない。その為の場だよ。だが――」 一度言葉を区切る。 「だが、その場に争いを持ち込もうとする者は、この私ロジャー=スミスの名にかけて許しはしない」 凄みを乗せた声で言い切る。覚悟と信念の入り混じった声。脅しではなく警告だった。 だがそれを風と受け流し、目の前の男は答える。微塵も気圧された感は覗えない。 「そいつぁ、怖いな。いいぜ。参加してやる。で、どこなんだ? その酔狂な集まりはよぉ」 「次の放送前にE-3地区にあるクレーター、そこへ来てもらいたい。ラクス=クラインという少女が眠る墓の前だ。行けば分かるだろう」 僅かな後悔を感じながら答える。 この男が本当に交渉するに値する人物だったのかどうか、スッキリしないものを感じていた。 だが一度口にした言葉をなかったことにするというのは、不可能だった。 何かの分野において一流の人物が一癖も二癖もある者である、ということは多い。 そしてそういう人物ほど自分という人間を隠すのに長けている。この男は果たして大当たりか。大外れか。 今はまだ判断が付かない。どちらともなく情報交換に移る。 交渉の時間は割り切れない気持ちを残しながら、一見穏やかに過ぎ去っていこうとしていた。 ◇ あらかたの情報を交換し終えてガウルンは考える。 ロジャー=スミスが把握している人間の位置。行動目的。危険人物。目ぼしい情報は既に手に入れた。 代わりに与えた情報はというとギャリソンとか言う祖父さんを始めとする死人のものばかり。それと出鱈目だ。 とは言え全くの出鱈目ばかりでもない。 例えばカシムとミスリルの連中の情報だ。無論カシムはここにはいないが、奴がいればどういうスタンスで行動したのかは想像に難しくない。 他の連中にしたって同様だ。 現実の人物像を元に創り上げた偽の情報。それを最もらしく流してやった。 下手な情報よりも現実に矛盾が発生しない分だけ問題が起こりにくい。何しろ真偽の程が分からないのだ。 それを調べ、偽物だということを立証しようと思えば、生存者のほぼ全ての情報が必要となる。 残り人数が分からない以上、誰も知らないところで誰かが生き延びている可能性を、完全に否定することなど不可能。 それにしても面白いことになってきた、と思いつつ気づかれないようにそれとなく周囲の様子を覗う。 機体の姿以外、声も、姿もばれていない事に付け込んで情報を得ることに関しては、予想以上の成果を得た。 ならば後の関心は統夜がどう出てくるのか、だ。 念を入れてマスターガンダムこそ隠して来たものの、統夜の自由を奪うようなことはしていない。 何も言っておらず、制限もつけていない。 ついでに言えば、自分がどう動くつもりなのか、それすら告げていない。 その状況下でどう動いてくるのか、それなりに興味があった。 これ幸いと逃げ出すようなら興醒めもいいところだが、そんな腑抜けならば最初から興味を持つ自分ではない。 何らかの行動を起こすはずだ、と妙に確信づいていた。 それに自分が統夜の立場なら、これを機会と見て自分を襲うだろう。そうすればマスターガンダムを出さざる得なくなる。 そのマスターガンダムは、過去の交戦でネゴシエイターに見られている。上手く行けば交渉人を味方に付けられるという寸法だ。 二対一の多勢を生かして厄介な俺を葬り去り、同時にネゴシエイターに取り入る。後は機会を見て面白おかしく暴れてやればいい。 信用させて裏切り、ネゴシエイターの間抜け面を拝む。中々に魅力的だ。想像しただけで愉快になってくる。 自分ならばまず間違いなくそれを選択するだろう。そして今の自分もそれを望んでいる。 一対二となれば、今はまだ発展途上で役不足の統夜と言えど楽しめる。知らず笑みが漏れた。 「どうした? 何か可笑しいのかね」 「何にって……そりゃぁ――」 どうした、統夜。お前はこの機会を逃すほど間抜けではないのだろう? 何をぐずぐずしている? 見ているだけでは機は失われていく。時間も余裕もない。ならどうすればいい? 簡単だ。 この好機を生かしてみせろ。今すぐ。今すぐにだ。さあ。さあ! さあっ!! さあッッ!!! さあッッッ!!!! 「そりゃぁ、あんたにさ。他人の本性も見抜けないでよく交渉人が務まるものだ。なぁ、ネゴシエイター」 交渉人が眉を顰め気色ばむのとほぼ同時に、瓦礫の山が跳ね上がった。 舞い上がる瓦礫を身に纏い、中空で身を翻す濃紺の機体はヴァイサーガ。それが鞘を払う。 その光景を背にガウルンは、呆気に取られたロジャー=スミスを無視して、高々と右腕を天に掲げる。 「クク……ずいぶんと遅かったじゃないか、統夜。首を長ぁーくして待ってたぜぇ。 どうした、ネゴシエイター。もっと楽しそうな顔をしろよ。楽しい楽しいパーティーの――始まりだ」 そして、指を弾く渇いた音が、辺りに妙に大きく木霊した。 「ククク……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!!!!」 →交錯線(2)
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/325.html
揺れる心の錬金術師 ◆7vhi1CrLM6 それを最初に見た――否、感じたとき、星のきらめきにとてもよく似ていると思ったことを、覚えている。 箱庭に散りばめられた53個のきらめき。 首輪に宿るアインスト細胞を通じて、アルフィミィはそれを知覚することが出来た。 視覚ではないところで見、聴覚ではないところで聞いている。 その感じ方は、NTや念動力者といった者達が他者を感じられるのと、似ているのかもしれない。 ただ、それは感覚という曖昧なもの。遠くのものを見て、その距離に当たりを付けるようなあやふやなもの。 不確実性は甚だしく、個人の趣向にも左右される。 見たいものだけを見、聞きたいことだけを聞く。見たくないもの、聞きたくないことは意識の外へ。 それがある程度可能なのだ。 だから別個に、アインスト細胞に依らない首輪そのものの機能の一つとして、ネビーイームには座標データが送られていた。 それを今、鎮座するデビルガンダムを通じてアルフィミィは確認している。 『問題』の反応はある。確かにその場所、その位置に反応はあり続けている。その問題ないはずの現象。 それがアルフィミィの焦りと混乱をより深くしていた。 「何故……感じられませんの」 どんなに意識を凝らしても見えない。聞こえない。これまで、こんなことはなかった。 箱庭というオモチャ箱に閉じ込めた53個のきらめき。その数は減り続けている。 死んで消えて去ったのだ。 それとは違う。死んでない。生きている。でも、知覚出来ない。感じられない。 まるで繋がらない電話だ。番号は知っているのに、間違ってないはずなのに。 出てくれない。 何度も、何度も、何度も掛けなおした。彼が居たはずの場所に目を凝らし、耳を凝らし、神経を集中させて感じようとした。 その度に、呼び出し音が虚しく響いただけだった。 「何で何も感じられませんのっ!!」 何も見えない。何も聞こえない。それが意味するもの。意味すること。 もしかして私は―― 頭をぶんぶんと左右に振って、その先の考えを振り払う。 もう一度。もう一度と自分に言い聞かせて、嫌な考えを頭から追い払う。 落ち着かぬ気持ちを無理にでも落ち着かせ、瞳を閉じる。箱庭に散らばるきらめきに意識を凝らす。 瞳は瞼の裏、何も映さない。漠々たる闇の意識野が拡がり、視覚ではない何かが光を捉える。 それはまるで夜空に浮かぶ星たちのきらめき。それは人の想い。 ときに強く、ときに弱く瞬き、怒れば赤に、悲しめば青にとその色を移ろわせていく、揺らめく炎のように。 それが画一的なアインストには無い色で、一つ一つ違った色で、最初は眺めているだけで楽しかった。 箱庭という宝石箱に、綺麗な色とりどりのビー玉を集めて喜んでいる子供のようなものだったのだろう。 だが、今はそんな余裕が無い。 焦りを抑えつつ、数え間違えのないようにそれを一つ一つ丁寧に確認していく。 確認できた数は19。そして、今現在生存しているはずの者の数は20。 ――ひとつ、足りませんの。 思い通りにならない現実に涙が滲んでくる。何もかも放り投げて泣き出しそうになる。 それを『がまん』の一言で押さえつけ、作業を続けた。 時計の針は、もうすぐ八時半を指す。対象を見失ってから約三十分。 何の進展も得られぬまま幾度となく繰り返した道筋を、もう一度辿る。 ユーゼス=ゴッツォとテンカワ=アキトのきらめきを確認。カミーユ=ビダンのきらめきも確認。 フェステニア=ミューズとオルバ=フロスト、確認。 ネビーイームから首輪の座標データを引き出し、照合。見つからない20個目のきらめき、それの存在を確認。 やはりそこにそれはあるのだ。なのに知覚できない。感じ取れない。 じわりと滲んだ涙をがまんして、口元がへの字に曲がった。まだ泣くには早い。 「 が ま ん ですの」 見えずとも、聞こえずともあるのだ。そこに間違いなくあるのだ。 なら感じ取れるはずだ。その存在を、自らの直属に位置する首輪のアインスト細胞を。 ユーゼス=ゴッツォとテンカワ=アキトの位置、カミーユ=ビダンの位置、フェステニア=ミューズとオルバ=フロストの位置。 それらを目印にすれば、意識野におけるキョウスケ=ナンブのおおよその位置は見当がつけられる。 睨みつけるかのようにして、感覚を研ぎ澄ます。そこに意識を凝らしていく。 広域に広げていた意識野を絞り込む。 中央廃墟、南部市街地の参加者を知覚の外へ。ロジャー=スミス、ソシエ=ハイムもそれに続く。 さらにレオナルド=メディチ=ブンドルと兜甲児も、今知覚外へ。 まだ見えない。さらに絞り込む。 ユーゼス=ゴッツォ、テンカワ=アキト、カミーユ=ビダンを知覚対象から外す。 最後に残ったフェステニア=ミューズ、オルバ=フロストの反応も意識野から追い出した。 そして残されたのは、狭く何もない漆黒の空間だけ。G-6基地だけに絞込み、意識を凝らしているにも関わらず――まだ知覚できない。 五感も不要。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚を順に排除。 研ぎ澄ました知覚を腕の形に。それを伸ばし、どろりと粘性を帯びた暗い意識野の水面へと埋めていく。 掻き回し、掻き乱す。時折両の手で掬い上げ、何もないのを確認してもう一度。 何度も何度も繰り返す。 何かがあるはずだ。ここに。この場所に。 それに触れようと必死になって探り続けた指先に不意に何かが当たり、途端に弾かれた。 研ぎ澄ました知覚の腕が掻き消され、五感が戻る。凝らし、絞り込んだ意識野が拡散する。 気づくと、汗だくの体でデビルガンダムに半身を埋めていた。蒼ざめた肌に、途切れ途切れの呼吸。 見つけた。触れた。知覚した。でも―― 「何故ですの……なぜ? 何で? どうして!? 何がッ!!」 次第に激を増していく言葉。空気が足りず、上半身だけで大きく仰け反るようにして、息を継ぐ。 「……わかりませんの」 天を仰いで呟いた声は、ついに涙声へと変わる。 見つけたのは、キョウスケ=ナンブの首輪に宿るアインスト細胞の反応。だが触れた瞬間に拒絶された。 下位のアインストが上位のアインストを拒絶することなど、普通ありはしない。 ましてそれが直轄のものならばなおさらだ。にも関わらず拒絶された。理由ははっきりしている。 「……わかりませんの」 自分よりも上位のアインストがあの場に居る。同位ではなく上位の存在。 首輪のアインスト細胞が反応をよこさずに拒絶したのは、より上位の存在に支配権が移ったが為。 「何故、あなたが……わかりませんの」 主がキョウスケ=ナンブを器に選んだ。それがほぼ確定。 メディウス・ロクスが起こした空間の歪み、箱庭へと滑り込んだ主の一欠片、知覚出来なくなったキョウスケ=ナンブ。 そこへ思い至るだけの材料は十分にあった。 にも関わらず、今の今までその可能性を考えの外に追い出していたのは、否定したかったからだろうか。 かつて主の前に立ちふさがり、主が力の大半と引き換えに撃ち滅ぼした者達の一人と同質の存在。 しかし、それ以外は何の変哲もない何処にでもいる普通の人間。器に選ばれるような理由はないはずなのに。 別にいいではないかと思う。気にする必要も必然性もない。 理由が分からずとも、ともかく主は新たな器を手にしたのだ。それでいいではないか。 ――でも、どうして心が揺れますの? 胸中の呟きに答えはない。 息をゆっくりと吸い、長く細く吐き出す。答えの出ない疑問を棚上げに、思考を切り替える。 主の欠片が箱庭に降り、器に憑依した。 ならば今自分が考えなければならないのは、この先どうするべきか、だ。 最大限の融通を利かせ、主の有利なようにことを進めるべきか。あるいはこのまま静観を続けるべきなのか。 いや、そもそも主はこの宴の目的たる新たな器を手にしたのだ。もうこれ以上、この宴を続ける理由は何処にもない。 箱庭から主を脱出させ、残ったサンプルたちはそのままここに放棄しても一向に構わないのではないだろうか。 でもそれは―― 「……嫌ですの」 会ってみたい者達が、依然としてこの箱庭で生き続けている。 例え主にとってもはや用済みの空間と言えど、自身にとって魅力的な宝石箱である事実は変わらない。 それに、それにだ。そもそもあれは主と、ノイ=レジセイアと呼べる程のモノなのだろうか? 主の欠片であることに間違いはない。 だが、もしもあれがノイ=レジセイアと呼べる程の力を持っていなければ? 主の選択が間違っていたとしたら? ――別の器が必要ですの。 主の本体はまだこちらにある。再度憑依を促す必要が生じたときの為に、今この宴を止めるわけにはいかない。 自分が生み出された理由は、『ノイ=レジセイアと呼ばれるモノ』を生きながらえさせる為なのだから。 そう理由付けながらも、でも、と思う。でも多分本当は認めたくないだけなのだ。 あれがノイ=レジセイアだとは認めたくない。自分と同じく人をベースとしたあれがノイ=レジセイアだと認めたくない。 そして、主の器は自分によって選び出されるべきなのだ。そうでなければ、自分が生み出された意味がなくなってしまう。 だから認めたくない。自己の存在を懸けて、認めるわけにはいかない。 「あれは敵」 自分の存在価値を根こそぎ奪っていくもの。 「あれはまがいもの」 主の力によって生み出された主とはまた異なった別個の存在。 本当にそう思っていれば、動けたのだろう。主の本体に確認を取ったはずだ。でも違うと言い張りながら、その足は出ない。 怖いのだ。 問えば主はあれをノイ=レジセイアと認めてしまうだろう。そうなれば、自分の存在理由が消えてしまう。 生れ落ちた意味も、今生きている意味も失われるのだ。 それが何よりも怖い。 誰でもいい。誰でもいいから教えて欲しい。与えて欲しい。揺らぐことのない存在価値を、存在理由を。 主でなくても、今箱庭の中にいる者でも、誰でもいい。誰でもいいのに―― 「ここには……誰もいませんの」 直径40kmにも及ぶネビーイームの最奥、その中枢。見回せばそこはがらんと広い巨大な空洞でしかない。 「誰も……」 そのときアインスト=アルフィミィは、生まれて初めて孤独を理解した。 【アルフィミィ 搭乗機体:デビルガンダム(機動武闘伝Gガンダム) パイロット状況:良好 機体状況:良好 現在位置:ネビーイーム 第一行動方針:バトルロワイアルの進行 最終行動方針:バトルロワイアルの完遂】 【二日目 8 50】 BACK NEXT 仮面の奥で静かに嗤う 投下順 変わりゆくもの 争いをこえて 時系列順 最後まで掴みたいもの BACK NEXT すべて、撃ち貫くのみ アルフィミィ 怒れる瞳